戦国時代

□序章
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ザッ…ザッ…ザッ…


数多の兵が足並みを揃えて草地を踏みしだく音がする。統率のとれた足音は一定のリズムで進む。



陰鬱な森の中で、その足音と馬の蹄の音だけが響き続ける。獣の気配は見当たらない。皆一様に隠れてしまっているようだ。



重苦しい隊列は物言わず、ただ前進を続けている。そんな光景を木の上から見下ろす影が一つ。


「……随分と威圧感のある隊列だこと。脱走兵はないようね…」


銀色の髪を靡かせ、左右で違う色のその瞳は冷たく兵卒を見下ろす。

「…所詮彼らも半ば嫌々で参戦している愚鈍の兵、期待しても無駄か。」


大将の周りにいる忠義深い兵以外は殆ど手中に収めた何処かの城仕えの兵。対した信頼など誰もかけていないのだ。

影は静かにその場を離れ、木から木へと飛び移り前列の方へ移動する。

素早く移動するその影はまるで平地を走るような速さで進んで行く。あまりの速さに姿を捉える事は出来ず、常人には僅かな残像しか眼に映らないのだ。それはまさに影そのもの。


影は眼前に自らの主君を捉え、少しずつそのスピードを落として行った。




















男は周りが畏縮する程の鋭い眼差しで眼前の隊列を眺めていた。


跨った馬からの振動を身に受けながら男は隣を行く友に話し掛けた。


「刑部よ、目的の村はまだか?」

「やれ三成そなに焦るな。あと半刻もせんうちに着くであろう」

「焦ってなどいない。ただ、日が真上を過ぎたので聞いたまでだ」


男、もとい西軍大将・石田三成は樹々の間からのぞく日輪に眼を向けた。日の位置からするに時刻は未の刻くらいだろう。

三成の隣で刑部は独特の笑い声を上げた。

「ヒッヒッヒッ、時刻なぞ気にする必要もあるまい。何時攻めようと同じこと、さして長丁場にもなるまい」


刑部は御輿の上で呑気に紙飛行機を折っていた。三成は興味がないのか別段咎める訳でもなく話を続けた。


「取るに足らぬ小さな村だ。ただ、今後の戦の為に手にいれておきたい地域というだけだ。私が居なくても勝てるような戦、長引くわけがない」

「にも関わらず律儀に出向くとは、主も変わり者よなぁ三成。」


「どんなに小さくとも、大将の居ない戦などあるものか。今回も私は見ているだけでいい。アイツが全て片付けるだろうからな。」


三成がアイツと言う単語を強調した事に対し、刑部はより一層笑みを深めた。


「随分信頼したものよなぁ。アレは太閤のそばに居たかつての主にそっくりよソックリ。アレは渾名の通りまさに石田軍の影……のぉ、"影法師"」


刑部は手に持っていた紙飛行機を宙へ放った。まっすぐ上がっていくそれは空へ届く前に一つの手によって捕らえられた。


「三成様…」

「鈴音か」


紙飛行機を片手に音も立てずに三成の前に降り立った影。
鈴音と呼ばれたその影は左右で色の違う瞳を光らせ三成を見つめた。
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