短期戦

□ワガママには慣れてます
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穏やかなある春の日

今日も今日とて忙しなく従業員は動き回る。


「おはよう皆さん。今日も素敵な小春日和ね」


スタッフフロアに響き渡る凛とした声に、それまで慌ただしかった人々が一斉に口を閉ざし、声の主の方へ顔を向けた。

「「「おはようございます!フロイライン‼」」」


そして皆一様に声を上げる。挨拶された張本人は笑顔でもう一度おはよう、と返した。


彼女はホテル王の令嬢にして、ホテル・ミネルヴァの支配人
苗字 名前
である。


名前は親の七光りに頼らず、若くして信頼を勝ち得て今の地位まで登り詰めた敏腕マネージャーである。従業員は彼女を親しみと信頼を込めてフロイライン(令嬢)と呼ぶ。


名前は今日もきっちりとした身だしなみとシャンッとした背筋で優雅に歩く。歩きながらも一日の予定を確認していく。


「今日の宿泊の予定は?」

「夕方6時に団体が一件チェックインの予定です。人数は23名様です」

「ではベルボーイとベルガールを総勢30名配置なさい。くれぐれもお荷物に傷を付けないように」

「フロイライン、連泊4日目のお客様の朝食ですが…」

「昨日は英国式でしたので今日は和食をお持ちなさい。でも大豆アレルギーのある方なのでお味噌ではなくお吸い物をお出しして」

「はい!」

「フロイライン今宜しいですか?」

「どうしました?」

「16階の渡辺様の家賃の事なんですが…先月分も今月分も支払いが滞っておりまして…」

「わかりました、渡辺様には私の方から直接お話しにいきます。」


テキパキと指示を出していく彼女に、従業員達は尊敬の眼差しを向ける。彼女の働く姿は大勢の人間をうっとりさせる。彼女の優雅で洗練された姿に惚れ込んでいるからこそ、従業員達はどんなに大変な仕事でも着いていこうと思うのだ。

実際に彼女が支配人になってからの離業率は過去最低をキープし続けている。


そんな名前に皆が感嘆しているなか、ある1人のメイドが困惑顔で彼女に近寄った。


「名前…じゃなかった、フロイライン‼」
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