短期戦
□ワガママには慣れてます
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「あら?せつなおはよう」
「あ、おはよう‼……じゃなくてっ‼大変なのよ〜‼」
駆け寄って来たのは名前の幼馴染みでメイドを務めているせつなだった。
だいぶ焦っているのか若干息が切れている。
「何がそんなに大変なの?」
「それが、27階の渋谷様がお怒りなのよ……」
せつなは落ち着きを取り戻したのか、今度は罰の悪そうな顔でしりすぼみになりながら話した。
27階の渋谷様と同居人のリン様は気難しい方で、他人を嫌うのでホテル内では有名。しかし二人とも顔がいいのでメイドが近寄りたがる。
しかしその度にメイドが彼らを怒らせて名前が謝りに行く事も多いのも事実。
そのため名前はせつなの口から渋谷様の名が紡がれ、あまつさえお怒りなどと言われれば気が重くならない訳がない。
「……今度は何が起きたの」
「あのね、渋谷様とリン様って、朝は必ずモーニングティーを飲まれるでしょ?それで今朝もまたメイド達が誰が行くかで争って…」
「本日の勝者は誰だったの?」
せつながチラリと視線をずらす。その視線の先を辿れば他のメイドに慰められながらしゃっくりあげている若く少々派手なメイドがいた。
「彼女は確か、以前も渋谷様を怒らせていたはずよ」
「なんだけどね…平等にクジを引いて当たったらしいわ」
「……困った子達ね。それで?彼女は何をしたの」
名前がため息を吐きつつせつなに視線を戻す。せつなの方も疲労が顔に滲んでいる。