短編
□誘ったつもりだったりする
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「…アスマ、ってよー、」
ある任務のなかった日の夜。
アスマは自分の家にシカマルを呼び、いわゆるお家デートと言うやつをしていた。
まあ、デートと言っても結局はいつも通りに過ごすだけなのだが。
縁側でのんびりと将棋を打っていると、シカマルがふいにアスマに声をかけた。
いつものように将棋でかなり不利になっていたアスマは眉を寄せながらシカマルに視線を向け、
「アスマって俺で勃つのか?」
ガシャアアァァ
将棋盤の上に顔面を打ち付けた。
「うわ、なにやってんだよアスマ。」
そんなアスマにたいしてシカマルは驚いたような声を出す。
アスマからすれば、お前がなに言ってんだと言いたいのだが。
「自分が負けそうだからって駒崩すなよ、めんどくせーな…。」
シカマルはなんでもないような表情で、アスマがダイブしたせいで崩れてしまった駒を並べ直し始めた。
アスマがダイブする直前とと寸分違わぬように駒を並べるシカマルは流石IQ200と言うかなんと言うか。アスマは混乱している頭でシカマルに拍手を送った。
「ほら、並べ終わったぜ。」
「いやいやいやいや。」
「んだよ…別にズルしてねーぜ。」
「わーったわーった。」
ちゃんと並べた、と駒を指差して主張するシカマルにアスマはそれはどうでも良いと告げる。
「あ?ならなんだよ。」
「…お前、さっきなんつった?」
「ズルしてねーぜ。」
「もうちょい前。」
「めんどくせーな。」
「あと少し前。」
「…アスマって俺で勃つ」
「それだ。」
自分の言葉を遮られたせいかシカマルは眉間に皺を刻むが、アスマはそれを気にした様子なく続ける。
「シカマルそれ…意味分かってて訊いてんのか。」
「そのつもりだけど?」
なに言ってんだコイツと言わんばかりに首を捻るシカマルにアスマは溜め息を吐く。
「お前……お前…。」
「だからさっきからなんなんだよアスマ。」
「こっちの台詞だ。」
俺はお前が何を言いてぇのか分かんねーよ。
大きな溜め息を吐きながら続けたアスマは、思い出したかのように将棋の駒を進める。
パチン
「…シカマル。」
「あ?」
パチン
「俺がお前で勃つっつったら、………どうすんだ。」
「…へぇって言う。」
パチン
その返しと将棋の手にアスマはううむと唸る。
「……………………………………なんでんなこと訊いてきたんだ。」
パチン
長考の末に出された返しと駒に、またも素早く返すと思われたシカマルは何故か黙り込む。
「なんでって……、」
「あ?」
「……ただ、よ。」
「どうしたー?」
先ほどまで余裕の表情だったシカマルが急に言葉を濁し出したことを不思議に思ったアスマは、駒を持ったまま固まったシカマルをのぞき込む。
「…ただ、」
「んー?」
「………王手!」
パチーン
「ぶっ!?」
アスマはシカマルをのぞき込んでいた顔を手で押し退けられて奇声を発しつつ、シカマルの言葉に慌てて将棋盤に視線をやった。
すると盤上には素敵な程きれいに取られた自分の王様が。
「なっ、シカマル待っ―――」
「待った無しだぜ。」
「いや、」
冷や汗を流して手で制すアスマを、シカマルは非情にも待った無しだと切り捨てた。いや、弱いアスマが悪いのだから非情ではないのだろうか。
「俺ションベン行って来る。」
待った待ったと叫ぶアスマに目もくれずに手洗いに向かったシカマルは、トイレの目の前についてから辺りを見回す。
そしてアスマがついてきていないことを確認するとその場に座り込んで頭を抱えた。
「………ただ、」
(アスマに襲って欲しかっただけだ)
「…とか、言える訳ねーだろアホ…!」
呟いたシカマルの顔は、見事な赤に染まっていた。
end
―――――
アスマを誘ったつもりのシカマルでした。
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