サイボーグ009
□恋をしている
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恋をしている
いつも街角で見かけるあの人は、
なんという名前なのだろう。
たった一度だけ話したことがある。
道を聞かれたのだ。
紳士的なその態度に私は…
惹かれたのだと思う。
私は毎日この商店街の一角にある雑貨屋で働いている。
小さいころからの夢であった雑貨屋を営むことは難しいことであったが好きなことを続けれるのは実に良い。
そんな日々を続けている時に彼は訪れたのだ。
「すまないが聞きたいことがある」
いらっしゃいませと笑顔で迎え入れた所、彼は申し訳なさそうに言った。
瞬時に彼が客ではなかったことに気が付いた。
「どうかないましたか?」
一目で外国人だろうと分かるその風貌には似つかない流暢な日本語に驚きつつも私は聞き返した。
「近くに本屋はないだろうか」
「私が知っているのは、この商店街にある古書を取り扱っている本屋さんしか…ほかは少し離れてしまいますが…」
私の言葉に彼は少し考えた後に
「古書…ぜひ教えてくれ」
彼の言葉通り私は通りに出て場所を説明する。
「Danke」
頭を下げて去っていく彼に私はとても丁寧な人だったと印象に残った記憶がある。
また外見も私に強く印象を残す一つの原因になった。
「だ…ドイツ人かな?」
見えなくなった背中に独り言を言いながら私はお店に戻った。
それから何日かおきに見かける彼を私は目で追うようになった。
チャンスがあれば、話しかけようと店先に小さな薔薇を置くことにした。
店先で花に水を上げている時に彼が来たら話しかけよう、何度もそう思った。
この感覚、小さなときに一度だけ…
たった一度だけ感じたことのあるあたたかい想い。
私にはまだこの気持ちがなんなのかわからなかった。
お題:恋をしている
2012.11.06