サイボーグ009

□白い手紙
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白い手紙


ここ何か月か彼を見かけては何度か会話をした。
天気が良いですね、とか、
今日も本屋さんに行くんですか、とか、
会話が成立しているのか微妙だけれど
そんな会話が嬉しかったりするのだ。

しかし、まだ名前を聞く勇気がなかった。

と…いうか短い会話で話が終わってしまう。

店を営んでいるものとして、会話を長引かせることができないなんてふがいない。




…緊張して頭が回らないのだ。









「ご苦労様です」

私は配達員にお礼をし、今日の入荷分の荷物の仕分けをしていた。

今日入荷したのは便せんにマスキングテープ、それにシールだ。
カタログですごくかわいくて注文したものだった。

それを中心のテーブルに並べて満足する。
やはりこの仕事は楽しいなあ。

ふと、その便せんたちをみて思う。



私も彼に手紙を書いてみようかな



直接会って話すのがすごく難しいから
それだったら手紙にしたためれば良いんじゃないかと考えたのだ。






しかし、なんと書こう…
名前を聞きたいんだけど…

机の上で便せんを置きうんうん唸っていると
お店の扉が開いた。


「いらっしゃいま…せ!」

彼だった。

「今日は花に水はあげないのか」

「あ、商品を陳列してて…」

そうだ、この時間はいつも水をあげて通りがかる彼に話しかけようかどうしようか悩んでいるのだった。

「ああ、そうか」

じゃあ邪魔したな、と去って行こうとする彼に私は慌てて声をかけた。

い、今しかないはずだ!

「あの」

ん?と振り返った彼に私は
勇気を振り絞って言った。

「な、な、名前を…」

恥ずかしいばかりだ。

「ハインリヒ」

彼は苦笑しながら言った。

「名前を名乗っていなかったな」

そういって私に告げてくれた名前は

アルベルト・ハインリヒ

素敵な名前だ。





また一つ彼を知ることが出来た。
この便せんは机に戻しておこう。









「私の名前は…」






お題:白い手紙

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