サイボーグ009
□君が好きなもの
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008ver;君が好きなもの
夜の海辺を僕は大切な人と歩いていた。
君はいつも静かに僕のそばにいてくれて、
それだけで僕は幸せだった。
「ねぇ、ピュンマ」
私はね、と続ける彼女の目はとても輝いていた。
「海がすごく好きなの」
僕はその言葉にどう答えてよいのかわからずに曖昧に笑うことしかできない。
彼女は海が好きというけれど、
海は僕にとっては苦手なもので、
自分がサイボーグだということをより認識させるものでしかなくて。
「ピュンマ?」
「ん?」
「とっても難しい顔、してるよ?」
無意識だったなと、僕は笑うんだけれど
「ねぇ、ピュンマ、あのね」
「海はね、ピュンマだと思うの」
「え?」
「たとえば、海を泳ぐじゃない?」
そのまま海へ近づく彼女。
「そしたらね、理由は分からないけれど」
水をすくってこちらをみた彼女は、
「ピュンマが近くにいるような気がするの」
笑顔だった。
「だから、大丈夫だよ?」
彼女にはかなわないと思った。
僕も、自分自身ともう少し向かい合ってみよう。
彼女が好きなものを僕が嫌いなわけない。
2012.11.21