女装しなきゃいけない赤司様!
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降旗はただ走り続けた。
赤司がどこにいるのかなど考えずに走った。けれど分かっていた。赤司がどこにいるのかを分かって、それに気付かずに走った。
外に出て、会場の裏側へとやってきた。そこにはやはり赤が佇んでいた。先程の威厳など感じられぬ物憂げな赤だった。
「見つけた....」
そう一言零し、息を整えてこんどはゆっくりと足を踏み出した。
「赤司...」
その声にハッとして勢いよく振り返った赤司は驚いた顔で降旗を凝視していた。その顔には何故“僕”に話しかけるのかと書いてあった。
「赤司は征華さんなんだよね?」
赤司が否定する暇もなく彼は話し続けた。
「さっき気付いてなんでって思ったけど、なんか理由があるんだよね?征華さんなら無闇にこんなことしない。赤司だってそうでしょ?だって征華さんは赤司なんだろ。」
『征華は僕。そうだよ。だってあれが本当の僕なんだ。征十郎なんだよ。気付いてくれた。僕はちゃんと僕だった。』
瞼を閉じ、考えた。真実を話すべきか否かを。
征華と征十郎が同一人物であることを他人に認めるのは、征華の存在を無として扱うことになるからである。
浮かんでくる征華の顔に問いかける。どうしたらいい?と。
けれど彼女は笑顔でいるだけなのだ。
『征華は僕だ。答えは僕にしか分からない。けど...僕は征華じゃない。征華じゃ......ないんだ。』
暫くの沈黙の後、赤司は重たい口を開けた。
そうして全てを吐き出した。
征華のこと。母親のこと。自らの過去のこと。彼の憎むべき運命を口から放り出していった。
気付いたら赤司は降旗に抱き締められていた。
赤司に降旗の顔は見えなかったが、微かに聞こえる嗚咽から降旗が泣いていることを悟った。
「ごめん、ごめん....」
「どうして謝る?」
「知らなくてごめん....」
降旗は悔いていた。
今まで彼がどんな思いを抱えて生きていたのかも知らずに彼の側にいたことを。
征華でいることすらつらいであろうに、征華として自分と笑っていたこと。
征華という枷に捕らわれ続けて、自分自信を失い始めていたこと。
知れば知るほど赤司の思いが痛いくらいに伝わってきて、降旗は悲しかった。
隣にいたのに何も出来なかったことが。なんの異変にも気付けなかったことが。
そんなことすら出来ずに、ごめんと謝ることしか出来なかった。
そんな降旗の思いを感じ取ったのか、赤司は小さく微笑んで腕を降旗の背へと回した。