悪魔と天使

□君は悪魔であんたは天使で
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「敦!久しぶりだね。」
「ほんとだねー。室ちーん。」
ここは牢獄。
天使たちの住む天界と悪魔たちの住む魔界の狭間にある場所。
人ならざるものを幽閉する場所。
そして彼らの密会場所であった。
敦こと紫原敦は魔界に住む悪魔である。
室ちんこと氷室辰也は天界に住む天使である。
本来、天使と悪魔は敵対しあっているため、好んで会うなんていうことは絶対にない。
偶然会ってしまったとしても、素通りがルールだ。
では何故彼らは仲良く話しているのだろうか。
「室ちん、マジ会いたかったー。」
ギュッと氷室に抱きつく紫原。
「俺もだよ、敦。」
それに対し優しく微笑み、抱き締め返す氷室。
そうこの2人は俗に言う恋人同士だ。
彼らが出会ったのもこの牢獄であった。
2人はその昔、罪を犯した。
とは言ってもそんな大それた罪ではない。氷室は大天使に、紫原は魔王に少し意見しただけなのだ。しかし、ここではそれは罪と見なされる。そしてここへ1ヶ月間の幽閉を課された。
彼らはその期間が同じであった。
さらに、向かいの檻であった。
初めは敵対心からお互いに気にも止めていなかったが、少しずつ暇になってきたのか、先に声を掛けたのは紫原だった。
「あんたなんで捕まってんの?」
「...答える義理はないと思うが。」
「俺はねーちょーっと魔王様に歯向かっちゃってねー。」
「...俺も似たようなものだよ。大天使様に少し逆らっただけだ。」
「そーなんだー。だって人間滅ぼすとかおかしなこと言うんだもん。」
「こっちもだ。全く何を考えているのかさっぱり分からない。」
こんな感じに気が合ってしまったのか話し合うようになった。
彼らが惹かれ合うのに時間はいらなかった。
いけないことだと分かっていたけれど、それでも彼らは付き合い始めた。
しかし、天使は魔界には行くことはできない。逆も然り、悪魔は天界には行けない。
それ故、彼らは牢獄でしか会うことができない。
こうして短い逢瀬を重ねて、彼らの関係は今日まで続いている。
「ね、室ちんシよ?」
「もう...しょうがないな。まぁ久しぶりだしね。でも、キスはダメだよ。」
「分かってる...」
彼らはほとんど会う度に体を重ねている。
と言ったら聞こえは悪いかもしれないが、彼らが会えるのは2ヶ月に1度ほどである。
会っているのがバレれば殺されるのではなく抹消されるのだから。
それほどまでにこの2人が犯し続けている罪は重い。
さて何故キスはダメなのだろうか。
疑問に思う方は大勢いるだろう。
別に氷室がしたくないからできないという訳ではない。
むしろ氷室はしたいと思っているくらいだ。
では何故なのかというと天使は悪魔とキスを交わせば天使は堕天使となってしまうからだ。
堕天使となれば自らの力が暴走し、犠牲が免れなくなる。
以前この2人のように愛し合った天使と悪魔がいた。彼女らはあろうことか一時の感情の昂りでキスをしてしまった。
そして天使であった女は暴走し自我を失い彼女自身の手で最愛の人...いや悪魔を消し去った。
それだけではなくたくさんの天使・悪魔を次々と殺していった。それを止めたのは大天使様だったそうだ。
彼女は下級天使であったから止めることができたのであろう。
しかし、氷室は上級天使だ。大天使様から一目置かれる程強い力を持っている。
そんな存在が堕天使となればどうなるのか検討もつかない。
それならば悪魔には何のデメリットもないのか。
いや天使を愛してしまった悪魔は別だ。
愛する者を失う。さらに自分まで消えるかもしれない。
だからこそ彼らはこの鉄の掟を守り続ける。
そう永遠にお互いの側に居続けるために。

行為を終えた彼らは雑談タイムへとはいった。
「次はいつ会えるのかなー?」
間抜けな声が発せられる。
「どうだろうね。」
クスクスと笑いながらそれに応える氷室。
「なんで笑ってんのー?」
「すぐ側にいるのに次の話だなんて変なのと思ってね。」
「だってこんなに短い。」
「仕方ないよ。」
「分かってるんだけどさー。」
やはり不満は募るもので。こんな短い時間ではやはり納得できないようだ。
それはもちろん氷室も同じだけれど。
そんか彼を見かねて話題を変える。
「あ、ねぇ敦知ってるかい?」


数日後天界と魔界に異変が起きた。
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