悪魔と天使

□君もあんたも人間で
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桜が咲いていたことなど忘れてしまいそうな程に、緑の葉が生い茂っている。
季節は巡り夏がやってきた。



IHも間近に迫った今、どこの部活も今まで以上に熱が入っている。それはバスケ部も例外ではない。今年は優勝を狙える程の過去最高の布陣である。当然気合の入り方が違う。




「好きだよ.....か。」

紫原は休憩時間に木陰でタオルを片手に木に寄りかかっていた。
ザアァァァと風が彼の長い髪を靡かせて、目に髪がかかってしまい、鬱陶しそうに目を細める。
そっと目を開けば腹立たしい程に輝く大陽があった。緑の葉の相まってより一層綺麗に見えた。その光は授業中に見た大陽の光よりも紫原の探す“それ”に近かった。

目を閉じてしまいたくなるくらいの眩い光。例えるならば消えてしまうのではないかと不安になるくらい儚い白い花。儚さだけではなくどこか凛とした気高さを持つ“それ”はどうしても彼の顔を思い浮かべてしまう。

「室ちん......」

そこで集合の合図が紫原の耳に届いたが彼は動こうとはしなかった。







「好きだよ......か。」

氷室は紫原のその言葉を聞いて駆け出した。
もうすぐ休憩が終わるから紫原を呼んでこいと先輩に言われたので呼びにきたのだ。
声をかけようとしたその瞬間彼のその言葉を聞いてしまった。


『苦しい、苦しい、苦しい......あの言葉は...あの言葉は..!!』

氷室の胸は今張り裂けそうなほどに痛かった。走ったせいではない。何故か痛かったのだ。内からくる何かが彼を支配した。


『誰に向かって言ったの?誰に言いたかったの?誰にその想いを抱いたの?』



『あの言葉は.....』









『僕のものだったじゃないか...!』

「え?」



彼の頭の中に見たこともない、体験したこともない記憶が紛れ込んできた。知らないはずなのに知っている。とても懐かしいそんな記憶。
紫原と共に過ごし、共に笑い、共に消えた。
嬉しくて、楽しくて、悲しくて、寂しくて。
たくさんの色んな感情が一気に流れて、彼の心を満たした。
苦しかった胸が、急に軽くなった気がした。けれどすぐにまた苦しみ始めた。

氷室は否定し続けてきたこの感情を肯定し、名前を付けた。それは“恋”といった。



『だけど敦は...俺のことを覚えていない。好きなんかじゃない......』


そう思うとまた胸が痛み、足に力が入らず草の上に膝をついた。
涙腺が緩んだが、涙は流すまいと上を向いた。そこには綺麗な蒼い蒼い空が広がっていた。

『こういう日に限って.....』


思わず目を細め、苦そうな顔をして下を向いた。
手で顔を覆えば自然と涙が零れてきた。
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