甘い夜【完】

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「黒子っち!一緒に帰ろう!!」
あの昔話から30年後。黄瀬は帝光中学校の2年生になっていた。
あれから自分くらいの子供がいそうな子供を持っていない家族を見つけては、自分が家族であると思いこませ生活してきた。
「そうですね。帰りましょう。」
学校を出て、帰路を進んでいく。
「今日ね!青峰っちがね!!」
止まることのない黄瀬のマシンガントークに
「そうですか。それは良かったですね。」
素っ気ないように見えるが実は意外と楽しんでいるのだ。
そして分かれ道に差し掛かり、
「また明日ね、黒子っち!」
ブンブンと笑顔で手を振れば
「えぇ、また明日。」
と小さく手を振り替す黒子。

「・・・はぁ!もう限界っスわ。」

夜も深まり、人通りが少なくなった路地裏。
コツコツ
ヒールの音が響く。
「お姉さん。」
「?」
くるりと振り向いた瞬間に頬を赤らめる彼女。
少しずつ隙間をつめて、抱きつき、首筋に顔を埋める。
「!?・・・・っあ!」
突然のことに驚きながらも、苦痛に顔を歪める彼女。
気を失い、倒れ落ちそうになる。
「おっと。危ない。」
持ち前の反射神経でそれを受け止める。そして傷口に手をかざし、記憶を無くすために念じる。
黄瀬は週に1度こうして血を見ず知らずの女性に貰うのだ。
『今回はあんまり美味しくなかったな。』
なんて失礼なことを思いながらも、そっと女性をベンチの上へ寝かせた。

『黒子っちの血は美味しいんスかね?』
最近黄瀬が考えるのはそのことばかりだ。
あの白い肌に噛み付きたい。
きっと紅が映えるのだろう。とかそういったことばかりだ。
『重症っスね。』
自嘲気味に苦笑する。
「あー、好きっスわ。」
そう、彼は黒子のことが好きなのだ。もちろんそういう意味で。


「おはようっス!」
「おはようございます。」
黄瀬と黒子はクラスが違うので、朝は会える可能性が少ない。だが、黄瀬は朝から想い人の顔を拝みたいがために黒子の来る時間に合わせて登校しているのだ。これが至福の時間だったりする。
「にしても朝は必ず会いますね。僕がたまに遅れてきても会いますよね。」
不思議そうにこてんと首を傾ける黒子。
それを見て、
『それは反則っス!黒子っちマジ天使!!!!』
なんて思いながら
「ほんとっスよね!なんでなんスかね?」
そう満面の笑みで返せば
「いや、僕が聞いてるんですけど・・・。」
なんて正論を返してくるが、脳内には今黒子しかいないので聞こえてないご様子。あんまりにも幸せそうな微笑だがなぜ笑っているのか分からない黒子は?マークがたくさん飛んでいる。
はぁとため息をこぼしても気づかないようで、そのまま玄関へと向かった。

『今日は朝から目の保養になったっス!』
HR時にもニヤニヤしていたため担任に注意される始末。
HRも終わり、1時限目の用意をしていると、お菓子を持った女の子がこちらへ近づいてきた。
『またっスか。』
内心ため息だ。
「あの・・・黄瀬くん。」
真っ赤な顔で話かけられれば答えるしかない。
「なんスか?」
「あの・・・これ貰ってくれない?」
「くれるんスか!?ありがとう。」
ニッコリと微笑めば去っていく女の子。ほらやっぱり。誰も気づきやしない。俺の感情なんて。
どうせ顔だけで。


部活の時間だ。
今日もハードな練習のようだ。あんなに朝はご機嫌だったが黄瀬は少し悩んでいた。
『やっぱ、黒子っちもおれのことなんか外見しか見てないんスかね?』
黒子をそういう人間だと思っているわけでは断じてない。もし思っていたら好きになんかならない。
だが
『俺の内面を見てくれていたとしても、やっぱ吸血鬼とかありえないっスよね・・・・』
かなり思いつめてしまったようで練習に身が入らず赤司から校庭を走って来いと言われた。

走り終わったのはもうみんなが帰っている時間だった。今日は居残り禁止である。体育館のメンテナンスの日なんだとか。
俺もとっとと着替えて帰ろうと部室へ入るとそこには本を読んでいる黒子がいた。
「あ、やっと来ましたか。」
パタンと本を閉じる音がした。
「え・・・なんでまだいるんスか?」
「赤司君は用事があるそうなので、僕が代わりに鍵を閉めなくてはいけなくなったんです。」
「あ・・・そうっスか。遅くなってすんません。」
折角、黒子と2人きりだというのに疲れているせいか元気が出ないようだ。
「いえ・・・。それに僕は君にも用があるんです。」
「え・・?」
なんのことかさっぱり分からないという黄瀬に
「今日様子変でしたよね?何かあったんですか。」
まぁそう思われるのは仕方ない。しかしだ理由を話すことはできない。
な ぜ な ら ば 理由が黒子っちは俺のことなんてという理由だからである。絶対に言えない。
「なんでもないっスよ!」
いつものように作り笑顔を浮かべると、黒子が急に眉をしかめた。
「・・・その顔嫌いです。」
「へ?」
急に何を言い出すのだろうか。
「だから、その顔が嫌いなんです。その作り笑顔が!」
「!?」
「最近よくしますよね。それやめてください。見てるとなんだかつらいです。というか僕にはしてほしくなかった。だいたい・・・!?」
急に話すのをやめて驚いた顔で黄瀬の方を見た。
『一体どうしたのだろうか。』
「なんで・・・泣いてるんですか。」
え?と思って頬に触れると確かに瞳から涙が溢れていた。
泣くのはあの日以来だった。実の母親と別れたあの日。
でも全然違う涙だった。暖かくて、嬉しくて、止められなかった。
泣いていると自覚すると余計に溢れてきて
「うっ・・うっあっ・・・・」
黒子はまだ驚いているようだったが黄瀬の背中を優しく撫でた。
しばらく泣き続けていた黄瀬だったがしばらくすると泣き止んだ。
「・・・・すいません。言い過ぎましたか?」
黒子は自分がきつく言いすぎたせいで黄瀬を泣かしてしまったと勘違いしているようだ。
「違うんス!ほんとに!!ただ嬉しくて・・・・」
「嬉しい?」
「はい!今まで気づいてくれた人なんていなかった。誰も俺を見てくれないんだって思ってたんス。だから・・・気づいてくれてほんとに嬉しかったんス!!」
『綺麗だ。』
黒子は素直にそう思った。作り笑顔じゃない、心からの笑顔。
『あぁ。その笑顔です。僕本当にその笑顔が好きなんです。愛しい。』

「そうですか・・・。なら気づくことができて良かったです。」
黄瀬はきょとんとしてまた笑った。
「・・・帰りましょうか。」
「はい!」

「じゃあ、早く準備してください。」
「あ、忘れてたっス!!」
慌ててロッカーへ走っていく黄瀬の背中にぽつりと
「・・・・好きですよ。」
呟く黒子。
その声は届くことはなかったけれど。
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