甘い夜【完】
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そうして少しの月日が流れた。しかし、黄瀬は未だに真相を黒子に話すことができずにいた。
『きっと黒子っちなら受け止めてくれるんだろう。だけど.....』
こんな夜を繰り返していた。
そして黒子も同様に
『黄瀬くんは何を隠しているんでしょう。最近感じるあのデシャヴはなんだ?僕は何か忘れているんでしょうか。何を.....』
黒子は黄瀬と会話をするたびにあの日の出来事を思いだそうとして失敗しているようだった。
そうして眠れない日々が続いていた。
『やっぱり好きな人から隠し事ってつらいですよね.....なんて...........』
今日も始まる悩める日々。
「黒子っち!おはよーっス!」
ドンッという音とともに黒子に抱きつく犬もとい黄瀬。
「...おはようございます。」
「え!?なんスか、今の間は!!?」
「すいません。君があまりにも乱暴にぶつかってくるので、少しよろめいていました。」
「なんか言葉に棘があるっス(泣)」
しかし、そんなことはお互い表面に出さず今まで通りの学校生活を送っているようだ。
こうしてまた校門の所ですれ違うようになったのは良いことなのだろう。
今日が2人にとって転機となる日だなんてまだ知らない。
部活の時間がやってきた。
「ハァー今日もキッツイっスねー。」
黄瀬が苦い顔色をしながら小さく溢す。
「涼太、外周行っておいで。そうだな、10周で勘弁してやる。」
そんな小さな呟きを拾い、罰を命じる。さすが赤司様!←
「うげっ、すまっせんでした!いってきます!!」
「あー終わった!!」
10周走り終わり体育館へと戻ってきた。
「お疲れさまです。黄瀬くん。」
そこへタオルを持った黒子が登場。
▼黄瀬のライフが100になった。
「黒子っち!ありがとっス!!」
満面の笑みを見せる黄瀬に黒子も頬を緩ませる。
しかし、黄瀬はここで異変に気づく。
『あれ?黒子っち顔色悪い?練習で疲れてんのかな?それにしてはひどすぎるような...........』
それもそのはすだ。連日の考え事のせいで、睡眠不足がピークを迎えていたのだ。
「く...」
黒子っちと言葉を紡ぐことはできなかった。
なぜなら、黒子が急に倒れたからだ。
バタンッ
黒子が体育館に打ち付けられる音が響く。
「っ...黒子っち!!!!」
黄瀬の大声が体育館にこだまする。
「黒子っち!大丈夫っスか!?しっかりして!!」
薄れ行く意識の中黒子には黄瀬の声だけが届いていた。周りの心配の声なんて聞こえていなかった。
(黄瀬くん!!大丈夫ですか!?しっかりしてください!!)
(ダメっス!!今は俺に近づかないで!お願いだから...)
『これはいつの会話?した記憶がない...
』
黒子は今、夢の中にいた。あの日の。
そして見た。自分の首に噛みつき、血を吸う彼の姿を。
『そうだ...これはあの日の.....どうして忘れてしまっていたんだろう。』
「く...こっち!...ろ...ち!!」
『誰かが僕を呼んでいる。行かないと。きっと彼だ。』
誰かなんて言わなくたって黒子には分かっている。それは愛しい彼なのだと。
「...........ん。」
「黒子っち!目が覚めたんスね!良かった...」
「黄瀬くん...ここは.....」
「保健室っス。」
「もしかして、君がここまで?」
「そうっス。」
「迷惑をかけてすみません。」
「迷惑なんて思ってないっス!黒子っちが無事で良かった。」
綺麗に微笑んだ。本当に綺麗に。なんの汚れもない、澄んだ笑顔。
それに一瞬黒子は押し黙る。そして
「ありがとうございます。」
「どういたしましてっス!」
また黒子が黙る。
『言ってもいいのでしょうか。けれど、言わなければならないときは来るのだから、だから.....』
そんな黒子を不思議に思い出ながら、心配した黄瀬が、黒子の顔をのぞきこみ
「黒子っち?大丈夫っスか?もしかしてまた具合が.....」
「黄瀬くん。」
黄瀬の言葉を遮り、黄瀬の名を呼ぶ。
「??はい。」
驚きながらも返事を返す。
「黄瀬くん、君は...吸血鬼ですね?」
黄瀬の喉がなる。
「.............」
「.............」
しばらくの沈黙が続く。
それを破ったのは
「なんでっスか?」
黄瀬だった。
「あの日のことを思い出しました。みんなでストバスに行った帰りのことを。確かに僕は君に血を吸われましたよね?」
「...........」
「黄瀬くん。」
「...そうっス。俺は吸血鬼っス。」
「...........」
「気持ち悪いっスよね。」
「黄瀬くん。」
「化け物なんスもんね。」
「黄瀬くん!!」
黒子が叫ぶ。
「これ以上僕の好きな人を貶すようなまねはいくら本人だからといっても許しませんよ。」
「へ?」
黄瀬からこの場の雰囲気とは合わないまぬけな声が出る。
「僕は君のことが好きですよ。友情ではなく愛情です。」
黄瀬は開いた口が塞がらず何も言うことができない。
「きっと受け入れることはできないでしょう。拒否してくださって、構いません。けれど、どうか否定はしないでください。僕の初恋です。」
「...っ!それ、ほんとっスか?」
小さくやっと聞き取れるくらい小さな声で聞き返す。
「当然です。僕は冗談が苦手です。」
「俺が化け物だって知っても?」
今にも泣き出しそうな震えるこえでもう一度問い返す。
「だから、僕の好きな人を貶さないでくださいって。...確かに驚きはしました。それでも、黄瀬くんは黄瀬くんです。それは変わりません。僕が好きになったのは君自身です。だから、そんなこと関係ありません。むしろそれを含めて君が好きですよ。」
とうとう黄瀬は泣き出した。
「ずるいっス...」
「何がですか?」
「男前過ぎっスよ、黒子っち。」
涙を流しながら、そっと笑う。
「俺も黒子っちが好きです。」
『今まであんなに悩んだのがバカみたいじゃないっスか...やっぱこの人が好きだ。この人の側にいたい。俺を受け入れてくれたこの人を...黒子っちを愛したい。』
今度は黒子が呆けてしまった。
「こんな俺ですが、付き合ってください。」
正気に戻り、少し照れながら
「こちらこそよろしくお願いします。」
こうしてここにやっと恋が実ったのだ。