甘い夜【完】

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「一つだけいいっスか?」
幸せムードの中黄瀬が真剣な顔で話し出す。
「はい?」
「俺は歳をとることができない。だから、黒子っちが歳をとっていっても俺は同じ時間を歩むことはできないんス。」
「...黄瀬くんは何年生きているんですか?」
黄瀬は全てを話した。
元は人間であったこと。
何故吸血鬼になってしまったのか分かっていないこと。
母親とのこと。
どうやって生きてきたのかということ。
能力のこと。
そう全てを。
黒子は
その間黙って、しかし時々頷きながら優しく聞いていた。
「そうだったんですか。不謹慎かもしれませんが、黄瀬くんが吸血鬼になってくれて良かったです。」
「???」
「君に会えたのですから。」
そう。彼らの生まれた時代は違っていた。黄瀬が吸血鬼になって今高校生としてここに存在していなければ、2人が恋に落ちることもなかったのだろう。
『だから、男前過ぎなんスよ!』
「その通りっスね!俺も黒子っちに会えたからなって良かったのかもしんないス!!」
黄瀬は初めて自分が吸血鬼であったことに喜びを感じた。
『黒子っちって俺にどれだけのものをくれるんだろう。』
「黄瀬くんは人間に戻りたいですか?」
黒子は神妙な面持ちで問いかけた。
「戻りたいっス。俺は...黒子っちと同じ時間を生きていきたい。」
「では、探しましょう。2人で。」
ニコッと笑って彼は言った。その言葉でまた泣きそうになる。
『俺、最近泣いてばっかだ。』
「...はいっ!!」

そうして彼らの忙しい日々が始まる。

「でも、探すってどうするんスか?」
「そうですね、まずは文献でもあさってみましょう。」
「そうっスね!」
次の日の昼休みのことだった。
2人は表ではこんな風だけども、本当は不安なのだ。
"本当にそんな方法はあるのだろうか。"
それでも探してみることしかできない。そうやって行くしかないのだ。前に進むためには。
「それらしい本を幾つか集めてみましょう。」
「じゃ、集め終わったらここに集合ってことで。」
「分かりました。」
ここ帝光中学校はかなりの広さの図書室を持っており、もうここ図書館じゃね?と言われるほどの大きさなので、2人は手分けして探しているのである。
そうして数十分後。
「結構少なかったっスね。なんか厚いけど。」
見つかったのはほんの5冊程度。この図書室を持ってしても、やはりそういった類いの本は少ないようである。
そして黄瀬の言った通り、かなり分厚い。これを全て読むには時間を要するであろう。
「放課後、読みにきましょう。今日は部活お休みですし。」
今日は顧問が出張だとかで、お休みのような。
「そうっスね!じゃ、もう戻りましょうか!」
「はい。」
そうしてお昼はお開きになった。

放課後。
「さて、読んでいきましょう。全部読んでいては時間がかかるので、それっぽい所だけ読んでいってください。」
「はいっス!」
そうして2人は読み始め、人間に戻れる方法的なものを紙に書き出していった。
「こんなもんスかね?」
「そうですね...」
「つっても俺の方は1個しか見つかんなかったんスけど...」
「奇遇ですね。僕もです。」
何やら2人とも、気まずそうな雰囲気を醸し出している。
「せーのっ。」
黄瀬の掛け声で2人同時にメモを見せあう。
書いてあることは同じ。
"満月の夜に愛し合う者と一夜を共にすること。"
「...........」
「...........」
更に気まずい雰囲気が押し寄せる。
「これってやっぱりそういうことですよね?」
「多分...ていうか絶対そういうことだと思うっス.....」
眉に皺を寄せる黒子を見て
「黒子っちが嫌ならやらなくていいっスよ!無理にすることないし.....やっぱ嫌っスよね、男に抱かれるなんて.....」
「!?そうじゃないんです!!」
焦ったように黒子が弁解しだす。
「君に抱かれるのは僕はいいんです。むしろ嬉しいことだとすら思います。.....ただ、僕なんか抱いてもつまらないとか、君が感じてくれなかったらとか、女の子の方が良いとかって思われたらどうしようって...恐くて...........」
いつになく、弱々しく話す黒子。
「っ!そんなことあるわけないじゃないっスか!!俺はずっと黒子っちが好きだったし、抱けるなんてメチャメチャ嬉しいっスよ!」
「黄瀬くん...」
「だから、そんなことないから、気にしないで?」
「はい、ありがとうございます。じゃあ、よろしくお願いします。」
「こ...こちらこそよろしくお願いします。」
2人して緊張しすぎて変な挨拶を交わしている。
ちなみに、図書室で何故こんな会話が出来ているのかというと、誰もいないからです☆
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