Short★book

□偽りの言葉を君に
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「やぁ光樹、元気かい?」
ガラッとドアを開けて彼がやって来た。
「征十郎っ!」
降旗が笑顔で迎えれば自然と赤司も微笑む。
「毎週ありがとな。」
「何を言ってるんだい。僕がしたくてしてることだ。礼なんていらない。」
ここは東京。
にも関わらず彼は京都から必ず週末には東京へと帰ってきていた。
それは何故か。
降旗が病気になってしまったからである。
その病気は現在治療法が発見されていない。
そして彼の寿命は残り1ヶ月まで迫ってきている。
今は入院中の身である。つまりここは病院だ。
その驚愕の事実を聞かされた時、降旗は狂ったように泣きじゃくった。赤司も泣き出しこそしなかったものの瞳に涙を溜め込んでいた。
しかし段々と現実と向き合い、受けとめ、残りの人生を楽しもうと生きている。
それでも時は進むのだ。ゆっくりと。されど急いで。

「今日はフルーツを持ってきたよ。」
籠いっぱいに様々な果物が詰め込まれたバスケットをヒョイと持ち上げてみせる。
「わぁ、ありがと!」
キラキラと瞳を輝かせてそれを見る。

「ねぇ、今外はどんな感じ?」
毎度赤司が来ると降旗はこう尋ねるのであった。
彼はもう外出することはできない。禁止されているのだ。
歩いたり、ましてや走ったりしようものなら確実に寿命は縮んでいく。
さらに看護師や医者も彼は見ることができないのに教えるのは酷だろうと話してはくれない。
「あぁ少し雪が降ってきたよ。最近は寒いね。でも東京は暖かい方だよ。」
けれど赤司は話す。彼の望みを少しでも叶えたいと心の底から思うからこそ。
「マジか!ここじゃ温度分かんないからさー。あー京都寒そう(笑)」
この部屋は体調を崩さないようにと室温管理が他の部屋以上に厳重にされていた。
「あぁ寒いよ。」
「大変だな。」

他愛もないこんな話で時間は過ぎていく。
それは彼らにとっては至福の時間。

「またね。」
「うん、また。」
1日はこうして去っていく。
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