Short★book
□密かな恋物語
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「お兄ちゃん!」
それはまだあの笑顔があった頃のお話。
「どうした、征華。」
読んでいた本をパタリと閉じて、彼女の方へと目を向ける。
1つ1つの動作が洗練されていて、それだけの行動にまで見惚れてしまうようだ。
「もう、お兄ちゃんは無駄に格好いいなぁ。あ、でね!どっか出掛けようよ!!」
ハァとわざとらしくため息をついた彼女は、すぐに用事を思い出したようで征十郎の方へと顔を戻し、瞳を輝かせる。
『まぁ、特に予定もないし...』
「いいよ、行こうか。どこにいくんだい?」
少し悩んだ後にやることもないと思いたり、了承の意を示す。
「やったぁ!水族館に行きたいの。ペンギンとかイルカさんとか見たい!!」
幼稚園児が遠足に行くかのように瞳をキラキラとさせて、出掛ける準備に取りかかるために自室へと戻っていった。
とある休日の幸せなお話。
「水族館の近くにバス停があるんだって!直通のが家の近くから出てるからそれに乗っていこ!!」
征華の周りにはありえないが、花が舞っているように見える。
「あぁ。」
その様子に少し呆れながらもなんだかんだで彼も楽しんでいるのだ。
少しばかり待っていればバスがやってきた。
それに乗り込む。休日の昼近くということもあってかたくさんの人が詰め込まれていた。
征十郎は嫌だなと思いながらも嬉々として乗り込んでいく彼女を見てしょうがないと腹をくくり乗り込む。
空は澄み渡る青が広がっていた。
雲1つない晴天。
こんな日はどうも調子が狂う。