Short★book

□密かな恋物語
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Side,Sejuro


「お兄ちゃん見て見てペンギンさん!」
ふわりとピンクのシフォンスカートを揺らめかせながらペンギンの元へ駆け寄っていく姿はなんとも女の子らしかった。

『黙ってれば美人なのに。』
何て失礼なことを考えながら征十郎も征華の元へとゆっくり近づいていく。

この2人はとても人目を惹いた。
もちろんこの容姿のせいである。1人だけでも十分に視線を集める彼らが揃って行動しているのだ。それは致し方ないことなのだろう。

「あ、もうすぐイルカショーの時間だ!行こ!!」
早く早くと騒がしい彼女を見て何とも言い難い気持ちになる征十郎。
『でもまぁこんな休日も悪くない。』
少し唇に弧を描きながら、地面を蹴った。


ザパァン.....ポタポタポタ
飼育員の指示に合わせて水の中を自在に動くイルカ。
飼育員が手を振り上げたかと思えばイルカは宙に浮いた。
大きな水飛沫と共に舞い上がる姿は絵のようであった。その衝撃で観客席にも少しばかりの滴が飛んでくる。もう冬に足を踏み出しているこの季節に水を浴びるのは少しつらいであろうに観客席に座る子供たちは何も気にしない。
ただイルカに夢中になっている。

『こいつは子供と同じだな...』
子供たちとお揃いの行動をとる隣に座る自分の妹を見て苦笑を溢す。

「いいな.....」
「何か言った?お兄ちゃん??」
自分が言葉を発していることに気付いていなかった征十郎は征華の言葉にハッとして微笑を向ける。
「いや、なんでもない。」
そう言えばそっかと素っ気ない返事を返され、またイルカショーに目を戻す征華。

"いいな"それは彼の心からの言葉だ。
征十郎にはまだあの過去が記憶の底に焼き付いている。どうしても忘れられないのだ。
征華と時を過ごし、表情こそ取り戻すことがてきたが、年相応に喜んだり、楽しんだりというこが出来ずにいた。
だから思ってしまったのだ。征華が羨ましいと。自分もあんな風に笑えたらと。



「んーどっちがいいかなぁ...」
イルカショーも終わりもうすぐ帰る時間となった。
お土産売場にて、征華はイルカとペンギンの2つの人形を持って眉間に皺を寄せていた。
「ねぇ、お兄ちゃん。どっちが良いと思う?」
悩んでも答えがでなかったのか最終的には征十郎た尋ねてきた。
「...どっちも買えばいいんじゃないのか?」
そんなに高い値段でもない上に、無駄遣いをしない彼女なら買えるだろうと思っているのである。
「それは駄目なの!」
「なんで?」
「なんででも!」
どうやら本当に駄目なようである。
「じゃあ、イルカを買え。」
「分かった!」
兄からの助言を受けペンギンを棚に戻し、イルカをレジへと持っていった。

「じゃ帰ろっか!」
そうして2人で一旦店の外に出た。
「すまない。トイレに行ってくる。少し待っていてくれ。」
「分かった。」
征十郎はそう言い残しもう一度店の中へ戻ってきた。
トイレへは行かず、向かったのは先程まで征華が百面相をしていた場所。
ペンギンを手に取りレジへ向かう。


『きっと泣いて喜ぶな。』
少し未来の彼女の顔を思い浮かべクスッと笑い、袋を鞄へと入れた。
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