Short★book

□密かな恋物語
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Side,Seka




「お兄ちゃん見て見てペンギンさん!」
できるだけ大きな声でと意識しながら話す。少しでも兄が笑ってくれるようにと。
最近の兄はどうも元気がないと気付いての征華なりの行動であったのだ。このお出掛けは。

『お兄ちゃんが悲しい顔をしないなら私はなんでもするから。だからお願い、笑って。』



「あ、もうすぐイルカショーの時間だ!行こ!!」
クルッと後ろを振り向けば兄は少し離れた所にいた。駆け出した兄の顔を見れば少しだけ頬が緩んでいる。
『良かった...』
その様子に無性に泣きたくなった。



ザパァン.....ポタポタポタ
始めは兄の様子を気にしながら見ていた征華であったが、途中からは完全に楽しんでいた。
『可愛いぃぃぃ!』
今頭の中はイルカ一色である。

「--------」
兄が小さな声で何かを言ったような気がした。
「何か言った?お兄ちゃん??」
「いや、なんでもない。」
知られたくないという顔で笑うから聞いてはいけないと察知した征華はそっかとだけ言い、もう一度イルカに、目を向けた。
『そんな顔をさせたかった訳じゃない......』
胸が痛かった。



「んーどっちがいいかなぁ...」
『どっちも欲しい。でもそういうわけにもいかない。あーどしよ.....』
兄に相談してみれば
「...どっちも買えばいいんじゃないのか?」
と返ってきた。

『絶対だめ!だってもうすぐお兄ちゃんの誕生日だもん!!』
12月20日。彼の誕生日。
その日のために今は無駄遣いをすることはできない。
『喜んでくれるもの買いたいもん.....』

結果、兄の言葉によりイルカを買うことに決めた。



今はトイレへと向かった兄を待っている。

『なんか私ばっかり楽しんじゃったな。お兄ちゃん楽しかったのかな.....』
不安に思いながらも兄の帰りを待つ。

自動ドアの開く音がして目を向ければ兄がいた。
彼は笑っていた。
『あぁ、良かった。来て良かった。楽しんでくれたなら良かった。』
彼女は満面の笑みで兄を迎えたのだった。


『大好き、お兄ちゃん大好き。』
彼女の想いは誰も知らない。それは儚く小さな恋物語。
彼女には伝える気もなければ、叶えたいと思っているわけではない。
兄妹であるからではない。兄がこちらを向くことはないと知っているから。
だから側で支え続けると誓ったのだ。彼女の願いはただ1つ。兄が笑顔であること。



家に帰り、ペンギンのぬいぐるみをプレゼントされた彼女はやはり泣きながら笑うのであろう。
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