女装しなきゃいけない赤司様!

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翌日の午前10時。黒子は駅の前にいた。
『遅いですね。赤司くんが遅れるなんて珍しい。』
そう思いながらもしばらく様子を伺うことにしたようだ。

そうして10分ぐらいが過ぎた頃。
「すまない、待たせた。」
透き通った綺麗な"女性"の声に黒子は振り向く。
赤く伸びた髪。ひらりと舞うスカート。丁寧にしかしナチュラルに化粧が施された顔。整えられた爪に塗られたマニキュア。
どこから見ても女性にしか見えない。
しかし。
「こんにちは。征華さん。」
「久し振りだね。黒子。」
彼女もとい彼はキセキの世代キャプテンにして、現在洛山をキャプテンとして率いる赤司征十郎である。
何故彼がこんな格好をするようになってしまったのかは話せば長くなる。
それはまたの機会にしよう。

「相変わらず引くくらい似合ってますね。というか遅れるなんて珍しいですね。」
なんだか棘のある言い方をする黒子に対して
「誉め言葉として受け取っておくよ。あぁ、すまなかったね。準備に手間取ってしまってね。」
やんわりと返す赤司。
準備とはもちろんこの格好、女装のことだ。
楽しい会話が弾む中、すこしの邪魔が入る。
「ねぇ、1人?」
ナンパだ。
その言葉に皺を寄せる赤司。
「すまないが、連れがいる。」
「へ?どこに?」
「...ここです。」
黒子がヒョコッと体をナンパ男の前に出す。
「ウォワ!!」
間抜けな声をだして、走り去っていった。
「さすがですね、征華さん。」
「何がだ。」
そう、この征華さん。超絶美人だ。
誰もが振り返るというくらいの美人。
本当の女性より綺麗ですよ、もちろん。
「何がって、ナンパされるくらい綺麗なんですねってことですよ。」
「フン、当然だろう。」
黒子の影もいつも以上に薄くなっている。

そこへどこからともなく声が。
「あれ、黒子じゃん。」
くるりと振り向けばそこには同じバスケ部の1年生の降旗がいた。
「降旗くん。」
「よぉ、偶然だな...ッ!」
驚くのも無理はない。黒子の隣には綺麗な女性が。しかも降旗のことを見つめている。降旗からは人混みに隠れて見えなかったようだった。
「ほんとですね。あ、こちら赤司征華さんです。」
「...どうも。」
征華は一応といった感じで挨拶をする。
「どうも!...て、赤司?」
つい元気よく返事を返してしまう降旗。しかし、ふと彼女の名字に疑問を抱く。
「あぁ、彼女は赤司くんの双子の妹さんです。」
その言葉に少し、本当に一瞬だが、征華は悲しい顔をした。その様子に黒子だけは気付いたようだった。降旗は気付かない。
「へぇ、妹か...」
納得したようだった。
「あの...あなたのお名前は?」
今度は征華が問いかける。
そういえば紹介してなかったと思い、
「あ...降旗光樹です。」
「降旗さんですか。よろしくお願いします。」
ニコッと微笑む彼女。
その瞬間降旗の頬が染まる。
『まずいですね...惚れてもらっては厄介です。』
そう思い黒子はそうそうに別れを告げようとするが、
「降旗さん。メアドと番号交換しませんか?」
征華の一言が邪魔をする。
「あ...はい。」
更に頬を染める降旗。
『これは......』
黒子が眉間に皺を寄せる。
そしてしばらく雑談を行った後、別れた。

「赤司くん...」
「征華だ。で、なんだ黒子?」
上機嫌な征華が問う。
「すみませんでした。征華さん。降旗くんを利用するつもりですか?」
「利用とは失礼だな。私の本当の性格を知ってどこまでついてきてくれるのかを試すだけだ。」
そう、征華は定期的にこういったことをしていた。
彼女は別に好きこのんでこんな格好をしているわけではない。その事情は女装を始めたことと関係があるため、それもまたの機会に。
「折角この姿なんだから、たまには楽しませてくれ。」
「それはいいんですがね、うちの部員を巻き込まないでください。」
心底嫌そうな顔の黒子。
「大丈夫だよ。どうせすぐ終わる。」
『ほんとにそうでしょうか?なんだか嫌な...と言うわけでもないですが、変な予感がします。』
そんな気持ちを押し込んで
「...ほどほどにしてくださいね。」
と言った。
嫌そうではあるが、黒子はそれを止めずにいた。ずっとだ。良いことではないと分かっていてもそれを止めろと言うことは出来なかった、黒子には。だって彼は...悲しい人だから。

「話は変わりますが、」
「?なんだ。」
「双子の妹というのはまずかったでしょうか。」
驚きに目を見開く征華。
「...いや、大丈夫だ。何故だ?」
「悲しそうな顔をされていたので。」
「.....気付いていたのか。」
今度は嫌そうな顔を見せる。
「まぁ。」
「別にいいんだ。そうでなくてはならないのだから。」
「...そうですか。」

2人の影は夕日の中に消えていった。
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