女装しなきゃいけない赤司様!

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運命の歯車が狂ってしまったのは征十郎が3歳の頃のことだった。
その頃征十郎はまだ赤司ではなかった。
名を藤岡征十郎といった。
藤岡の家は特に裕福でもなく、貧しくもなく、極々一般的な家庭だった。
それでも幸せだったのだ。
毎日が楽しくて笑顔で過ごすことができていたのだ。
ただ彼は美しすぎた。
綺麗な赤い髪。
透き通るような赤い瞳。
整った顔立ち。
幼いながらも誰から見ても分かるくらいの、将来が期待されるくらいの。
事件はとある日曜日に起きた。
両親共に仕事は休みで、3人でゆっくりと家で過ごしていた。
「おかーさん、おとーさん!つぎはこれこれ!」
征十郎はブロックのおもちゃを指差しそう言った。
「はいはい。」
優しげに微笑み、そのブロックに母親が手を伸ばした瞬間のことであった。
パリン
ガラスの割れる音がした。
「何だ、今の音は?」
父親が不思議そうに呟く。
「少し見てこよう。」
ソファーから立ち上がり音のした方へと向かおうとする。
ガチャ
ドアの開いた音がした。
そこからは見たこともない奴らが数人立っており、3人が声をあげる間もなく両親は刺されていた。

征十郎は状況を理解できす、両親の血を身に纏いながらただただ茫然としていた。
奴らの手際は鮮やかで、慣れていることが一目で分かるものだった。
「に.....げて...........にげ.....るのよ...........せ...じゅ.....」
グサッ
まだ息の残っていた母親は最後の力を振り絞り、逃げろと征十郎に伝えた。
手を伸ばし、開かない瞼を必死にこじ開け、ただ懇願するような瞳で。
にも関わらず奴らはそんな彼女の思いなど気にも止めず無惨にもとどめをさすのだった。
「おか...........さん?」
「や.....だ...........」
幼い頃から賢かった征十郎は段々と状況を理解しだしたのか、声を出しはじめた。
「こいつがターゲットだな。」
そんな征十郎を他所に奴らはマジマジと征十郎を観察し、話始めた。
「あぁ。ボス直々ってだけあって、綺麗な顔してんじゃねぇか。」
「こいつは高く売れるぜ。」
そんな話をしているとどこからかパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「なんで察が!?」
「クソッ、なんで!!」
奴らの手口は完璧だった。
しかし、近所の住人が偶然目撃していたのだ。
ガラスを割り、家へと侵入していく不審者を。
もちろん奴らは周りにも細心の注意を払い行動していたのだが、奴らからは死角となる場所にその住人はいた。
「仕方ない.....こいつを人質にして逃げるぞ!」
と奴らの1人が提案した。
「いいのかよ...ボスのお気に入りだろ?」
「だけどそれしかないだろ!無事なら大丈夫だよ!!」
等々しばらくの口論の末、結果征十郎を人質として逃げるという方法になった。
だが外に出て、征十郎を突き付け、こいつを殺されたくなければいますぐ散れなんてドラマ染みたセリフを吐いた奴らの1人がどこからかやって来た銃弾に撃たれ倒れこんだ。
征十郎は奴の腕から滑り落ち地面へと落ちた。
それに怯んだ奴らの隙を突き、警察は奴らを捕らえた。
その間、征十郎は一言も発しなかった。否、話すことができなかった。
現実離れしたこの現状に脳が追い付いていなかったのだ。
「もう大丈夫。安心して。」
1人の女警察官が征十郎に優しく語りかける。
ホッとしたのか全てを理解してしまったのか彼の瞳から一粒また一粒と涙が零れる。
「う.....うぁぁぁぁ!」
彼の悲痛な叫びが響き渡り、女はそれを受け止めるかのように彼を抱きしめ、周りにいたものたちは皆、下を向いていた。

それから彼は孤児院へと預けられた。
征十郎は笑わない子どもになってしまった。
どれだけ施設の子どもたちと遊んでも、先生たちが楽しい話をしてもニコリともしなかった。

それから2年後、征十郎が5歳の頃のことである。
施設を運営している赤司の家のものたちがやって来た。
彼らは多忙で中々来ることがない。
そのためとても久しい訪問であった。
「あなた...........」
女は征十郎を見て、呟くように言った。
「うちへいらっしゃい。」
その一言もまた彼の人生の転機となった。

彼女は昔から男の子が欲しかったらしい。
しかし、残念ながら赤司の家には女の子しか生まれなかった。
もちろん、彼女はその子のことはとても愛していた。

そしてその次の日、藤岡征十郎は赤司征十郎となった。

そこで出会った女の子。
名を征華と言った。
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