女装しなきゃいけない赤司様!

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けれど彼はただ体を少し地面に打ち付けただけだった。
彼を襲うはずだった痛みは想像よりもずっと軽いものだった。
後ろを振り向くと血に濡れた征華がいた。
彼を襲うはずだった痛みは全て彼女に降かかってしまった。
「せ.....いか?」
そう呟くだけで精一杯だった。
彼女に近寄って声を掛けたいのに。
ごめんって謝りたいのに。
声なんてもう出てこなくって。
動くことなんてできなくて。
人が血を出して倒れているのを彼が見るのは2回目だった。
彼の脳内には昔の両親がいなくなったときの映像がフラッシュバックしていた。
彼女もいなくなるのかと。
彼女も喋らなくなるのかと。
あの輝く笑顔が見れなくなるのかと。
あの楽しい日々は消え去るのかと。
また自分は1人になってしまうのかと。
また笑い合うことが出来なくなってしまうのかと。
.....また自分のせいで人が死ぬのかと。
彼の頭の中にはそんなことが流れていて。
怖くなってしまったのか、恐ろしくなってしまったのか、征十郎の瞳から涙が零れていた。

やっと動き出した時には、周りに人だかりができていた。
大丈夫か。救急車呼べ。そんな声は征十郎には聞こえなかった。
フラッと征華の側にしゃがみこんだ。
「せ...いか.....せいか...........」
征十郎は流れる涙を拭うこともせず、征華の手を握りただ彼女の名前を呼んだ。
反応の返ってくることのなかった手が征十郎の手を強く握り返した。
「.....お..に...ちゃんの....せ..じゃな........」
お兄ちゃんのせいじゃない。
彼女がそう言いたがっているのだと理解した。
「違う、違う!僕の.....僕のせいだ!!」
彼はただ自分を攻めた。
焦点の合っていない瞳は虚としていた。
「-------------------」
彼女はそう微笑んで言った。
それが彼女の最後の言葉だった。
そう言い残した征華は意識を失った。
「あ...あぁ.....あぁぁあぁぁああ!!」
彼に出来たのは泣き叫ぶことだけであった。

その後、救急車がやって来てもう既に死に至ってしまった彼女を運んでいった。
連絡を聞き付けた赤司の母と父もいた。
征華の亡骸を抱き締めるかのように泣き崩れる母。
征十郎の頭にお前は悪くないとでもいうように手を置き、そして唇を噛み締める父がいた。
「征華...征華.....」
機械のようにそう繰り返す母。
そんな母がようやくその唇を止め、征十郎の方を向いた。
「征十郎...征十郎...」
次はそう繰り返し始めた。
そんな彼女の肩を抱く父。
『これは僕が作ったんだ.....このお母様は僕が...........』
征十郎は自分を攻め続けた。
『母さんなんているわけがなかったのに。他人の空似だと分かっていたのに...』
『征華.....ごめん、征華.......』
そうして今日は終わった。

次の日のことだった。
「おはよう、征十郎。征華と一緒じゃないなんて珍しいわね。」
母は昨日のことを忘れていた。
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