女装しなきゃいけない赤司様!

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「はぁ...はぁはぁはぁ.....げほっげほっ............」
彼は荒い息づかいと尋常ではない汗の量と共に綺麗な日の差す朝を迎えた。
彼もとい征十郎を襲ったのは悪夢であった。
彼の昔の記憶。
『またか...くそっ.....』
定期的に夢の中へと現れるそれは彼を苦しめ続けていた。
見る度に思わずにはいられなかった。
どうして自分がこんな運命を辿らなければいけないのかと。
しかし、すぐに思うのだ。
自分の恩人である征華のためだと。昔に今より酷い体験をしたではないかと。
『随分と幸せな時間を過ごしすぎてしまったようだな。』
1人自嘲気味に笑う。
彼は気づかない。普通の人ならばもう耐えられなくなってしまっているであろうということに。
当然といえば当然なのだろう。彼の過ごした時間はあまりに普通とはかけ離れている。

『あぁこんな日はろくなことが起こりはしない。』
そう思いながら携帯を開く。
悪夢を見た日は必ずといっていいほど黒子に電話をかけていた。
誰かと話さなければ落ち着かなくなってしまうのだ。
今日も掛けようと電話帳を開き、黒子テツヤと書かれたところを押そうとして、彼の指の動きが止まる。
彼の頭の中に1人の人物が思い浮かんだ。
更に下へと進んでいき、押したのは降旗光樹と書かれたところ。
今度は躊躇わずにそこをクリックする。
プルルルルルプルルルルル
まだ朝も早いというのにわずか2コールで降旗は電話に出た。
「も...もしもし?」
少し戸惑った様子の降旗に征十郎は自然と笑みが溢れる。
そして征華として返事を返す。
「あぁ、私だ。朝早くにすまなかったね。」
「いやいやとんでもない!で、どうかされたんですか?」
「だから敬語を使うな。」
少しムッと答えれば
「っごめん!」
と返ってくる。その返事に満足したようで、話を進めていく。
「今日は空いているか?」
「空いてるけど...」
ホッとしたように息を吐く。
「そうか。じゃあ一緒に出掛けないか?」
「もちろん!」
降旗も嬉しそうに微笑む。
「場所は駅前でいいだろ。集合は...何時がいい?」
「え...じゃあ9時くらいはどう?」
「構わない。それではまた後で。」
「うん、また後で。」
ピッ
電話が終わり、征十郎は出掛ける準備をし始める。
今から征華にならなくてはならないのだ。少し時間がかかってしまう。駅へ向かう時間も考えれば9時にギリギリ間に合うという感じだ。
集合時間を遅らせた方が良かったのでは?という考えは彼の中にはなかった。
少しでも早く降旗に会いたかったのだ。彼に自覚はない。
それは何故なのか。
その答えはすぐに嫌でも知ることになる。
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