女装しなきゃいけない赤司様!
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僕が赤司くんの秘密を知ったのは中学3年生の春のことだった。
帝光中にはある噂があった。
赤司くんと瓜二つの赤髪の美少女が時々街に出没するというものだ。
とある勇者が赤司くんにその少女との関係を聴いてみたところ、恐らく妹だろうとの答えが返ってきたらしい。
その噂について、仲良くしていた巻藤くんと話していると信じられない話を聴かされた。
「....え?それって赤司征華さんのことだよね?彼女なら.......」
彼女は3年前に亡くなっているそうだ。巻藤くんは当時彼女とクラスメイトで、赤司くんと同じ小学校に通っていたらしい。
僕はその矛盾がとても気になり、赤司くん本人に聴いてみることにした。
都合良く部活の居残り練も終えた部誌を書いている赤司くんと部室で2人きりになったため、思い切って尋ねた。
「赤司くん。」
緊張を悟られぬようにと話を慎重に切り出した。
「なんだ。」
僕の方には目もくれずただペンを走らせていた。
「妹さんのお名前なんとおっしゃるんですか?」
もしかしたら妹は2人いたのかもしれない。亡くなられた方ではなくもう1人の方なのかもしれない。
そんな淡い期待を抱きながら問いかけた。
「唐突だな。」
ペンを止め、いつもの余裕の笑みを零す彼からは焦りの色など見られなかった。
「気になったものですから。」
ただただ平静を装い、彼の顔色を窺った。
「まぁいい。名前は征華だ。あまり言いふらすなよ?」
名前を聞いた瞬間にどうしたらいいのか分からなくなってしまった。
巻藤くんに嘘を言っている様子はなかった。
では今存在している彼女は何者なのか。
「そんな....征華さんは亡くなったのでは」
ここまで言いかけてしまったと思い、口を噤んだ。
赤司くんの顔から笑みが消え、悲痛に顔が歪んだ。
しかしそれは一瞬であり、すぐに彼は次の言葉を放った。
「どうして?」
あの時笑っている彼に少し恐怖感を持った。
そんな彼を作ってしまった過去に腹がたった。
昔の彼女のクラスメイトから聞いたのだというとそっかとまた笑った。
折角誰も知らないような所に来たのにと。
そうして彼は全てを僕に話してくれた。
1人で抱え込むには大きすぎるそれは今まで彼1人の肩にのし掛かっていた。
きっと1人では限界だったのだ。
だから僕に話してくれたのだ。
そうして気付いた。彼を支えられるのは今僕しかいないと。
僕の肩に顔を埋めて話続ける彼は声は掠れていたが、泣いてはいなかった。
征華さんが死んだ日以来泣いていないのだという。
気付けば僕が泣いていた。
どうしてお前が泣くのかと笑われた。
君の代わりに泣いているのだと言えばまた笑われた。
いつか彼が自分で泣ける日を願って側に居続けた。