女装しなきゃいけない赤司様!

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「だ.....れ?」

流れてしまった涙を袖で乱暴に拭ってその少年を下から見据える。背はあまり変わらないようだが、ブランコに乗っているため降旗は見上げる形になった。
よく見れば目も髪とお揃いの綺麗な赤だった。
子供用タキシード姿の彼は家が裕福なのだと降旗は思った。さらにその姿が似合う美貌も兼ね備えている。
神様はやっぱり不公平だと降旗は下を向いた。


するとその少年は膝を曲げて、降旗よりも視線を低くしてニコッと微笑んだ。
「僕は、赤司。赤司征十郎っていうんだ。」
降旗はその少年もとい赤司の言葉に驚いた。彼から発せられたのは降旗の問いに関しての答え。金持ちの子供だから、いばって、自分を馬鹿にするのだと考えてた。何もかも彼より劣っている自分を。情けなく1人で泣いている自分を。
降旗が驚いてまた目を合わせると
「君の名前は?」
同じ質問をされた。だから降旗は
「降旗.....光樹........」
と自分の名前を伝えた。



「光樹か。.....何かつらいことがあったんだろう?今会ったばかりの赤の他人に言う気にはならないかもしれないが、よく知らないからこそ言えることもあると思わないか?」
突然名を呼ばれたことにも驚いたが、自分の心配をしてくれたことに降旗はとても驚いた。
けれど、不思議と嫌な気持ちにはならず、口が勝手に動いた。


降旗は自分の過去を小さな声で途切れ途切れに語った。その小さな音を逃すまいと赤司は耳を傾け頷きながら聴く。その間赤司は降旗の手を握り続けていた。





全てを話し終えた降旗は赤司になんと言われるのかが怖かった。
『また可哀想だと思われるのかな....』
彼にはそんなことを言って欲しくないとギュッと目を瞑る。




「頑張ったね。」
その言葉と共に感じたのは温もり。赤司は降旗を抱き締めていた。
その瞬間降旗の瞳からボロボロと涙が零れる。涙が赤司の高価そうな服を濡らしていく。それに気付いた降旗が離れよとするが、赤司はさせまいとさらに力を込める。

降旗は悲しかったのではない。嬉しかったのだ。自分の人生を認めてくれたことが。
“可哀想”という言葉が降旗は嫌いだった。何故なら自分が今まで過ごした時間が要らないものだと言われているような気がしたから。過ごすべき時間ではなかったと言われているようで。自分は必要のない人間だと言われているようで。

だから、赤司の言葉が嬉しかった。自分は頑張って耐えて生きていて良かったと思えたから。
今、存在していることを認められているような気がしたから。




「光樹。僕が君を守ってあげる。」


その言葉を最後に赤司は消えた。

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