女装しなきゃいけない赤司様!

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見慣れたはずの自分の家であるはずなのに、今日はやけに大きく見える。威圧感すら醸し出している気がする。

父親が今、この本低にて仕事をしていることは確認済みであり、扉を開けて、書斎へと向かえばそれでいい。何も恐れることはない。



「「「「おかえりなさいませ」」」」

父親の仕事について執事に尋ねたときに、今日帰ると言ってあったからか、玄関には使用人たちが並び僕を迎え入れてくれた。

「ただいま」

と返せば旦那様は書斎におりますと丁寧にも伝えてくれたので、その言葉にあぁと返して書斎へと歩き出す。

そうだな。書斎への道を辿るのはあの日以来だろうか。僕が征華になると決めたあの日。俺は一生あの日のお父様の顔を忘れないだろうと思う。申し訳なさと安堵と悲痛な思いを混ぜ合わせたあの顔を。
今でもお父様は征華と顔を合わせたがらないしな。僕と顔を合わせるのも極力控えてる気すらする。





ねぇ、お父様。こんな僕を貴方は許してくださるでしょうか。















コンコン

「誰だ?」
「僕です。征十郎です」
「入りなさい」

僕の顔を見たお父様は何故か優しく微笑んだ。その顔を見たのはまだ征華が生きていた頃の......

「お話があります」
「分かっているよ。お前が部屋に入ってきたときの顔を見れば分かる。うん、もうやめよう。母さんに本当のことを話そう。きっと彼女も分かってくれるよ」

そう言ってお父様は僕の手を握った。どうして、なんで。なんで分かったんですか。どうしてそんなに優しい顔をするんですか。だって僕は今お母様を傷つけようとしているんですよ。怒鳴ってくれたっていいんです。お前が始めたことだろうって蔑んでくれたっていいんです。そんな優しくしないでください。そんな優しく触れないでください。



「私は確かに征華を愛していたし、死んでしまったときは心底悲しかったよ。けど、征華が命をかけてまで守ろうとしたお前と私が愛したお前の母親をしっかり守っていこうと思った。あの時とめるべきだった。お前が征華になるだんてこと。お前の負担になるのは分かっていたし、お前がつらいと思っていることも分かっていた。けれど、どうしてもやめろと言えなかった。母さんの笑顔がまた消えてしまうと思うと言えなかった。けれど、言うべきだった。それがお前の笑顔を消してもいい理由になるはずがない。ごめんな、征十郎。私の愛する息子。ごめんな」

僕の体を抱きしめるお父様の体は温かいのに、肩口が冷たい。泣かないでください。僕の方こそごめんなさい。僕も知っていたんです。貴方が僕にやめてほしがっていること。それでもお母様のこととの間で迷っていること。全部知っていたんです。なのにやめると言うことのできなかった弱い僕に謝る必要なんて少しもないんです。
あぁ、温かい。こんな温もりを感じるのはいつ以来だろうか。肩の力が抜ける。何かが頬を伝った気がした。おかしいな。泣くなんて。そんなことも一体いつ以来だろうか。

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