ショウセツV

□騙された
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―真夜中。
とは今のような時間を指すのだろう。

そう思わせる程、窓の外は真っ暗で、肌寒い。


響き渡る時計の秒針の音。
その時計を見ることはなく。
温かい紅茶を一口。


最近、どうも寝付けない。

こんな真夜中まで起きているのは、いつぶりだろうか。

ここずっと穏やかで。
しばらく休暇がとれた。

「夜遊びでもしようかな」

真夜中に起こりうる変なテンション。
なんだかワクワクするような胸の高鳴り。

上着を羽織って、カイは外へと歩き出した。


―深夜にも関わらず、沢山の人が楽しんでいる街。
眠らない街と呼ばれている。
そんな、カイには縁のない。


「プライベートで来るのは初めてだな」

少し変わって見える。
仕事と、プライベートでは。


「!」

そんな街の隅。
茶色い長髪の。

「…べ、別人」

ソルに似た男。

一瞬、飛び上がるかと思うほどに胸が震えた。

「…驚いた、本当にそっくりだ」

よく見なければ別人とは判断しにくいほど似ている。

「ソル…じゃないのか」

少し、がっかりしている自分に、ふと気づいた。

「はは…夜遊びって不思議だな」

きっとそれは時間のせい。
こんな深夜のせい。
あまり寝ていないせい。

「…っう…」

高鳴る鼓動が頬を赤らめていく。
やはり、勘違いじゃない。
あの、ソルに似た男を見ていると、どんどん速くなる鼓動。
熱くなる顔、耳。

「ぁーあーっ」

声に出して、その恥ずかしさから逃げ出そうと。

熱くなった両耳を両手で隠して、その場にしゃがみこんで。


恋。

そんな言葉がよぎった。

「まさか…私がっソルに…?」

よく似た男が目に入る

また、高鳴った。

 
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