ショウセツV
□騙された
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「…ひとめ…惚れ?」
あの男に一目ぼれをしたのかもしれない。
ソルに良く似たあの人に。
なん、で。
「…大丈夫ですか?」
「ぇっ?!」
しゃがみこんだカイの頭上。
ソルによく似た、その顔。
「あの…だ、だ、だいじょ…」
「随分熱があるようですね…」
近づく、その顔。
触れられた頬。
カイの熱は、さらに上がる。
「あの、大丈夫ですからっす、すみませ…」
「俺の家、すぐそこなんです」
「ぇ…?」
「少し、休んでいかれたらどうですか?」
とても優しい笑顔。
本物のソルにはないもので。
カイは、少し、泣きそうになった。
―見知らぬ男の部屋。
きれいに片付いていて。
「だいぶ、落ち着いたみたいですね。良かった」
そう言って、温かいスープを机に並べる。
「あ、自己紹介がまだでしたね。俺はレイ。あなたは?」
「私はカイ=キスクです。カイで良いです」
「カイ…きれいな名前だ」
目を細めて微笑む。
やはりソルじゃない。
けど、とてもよく似ている。
そんな顔にほれた。
おちる、とはこういうことなのだろう。
一瞬だった。
なにかに打ち抜かれた感覚。
「カイ、家はどこ?」
おさまらない鼓動を隠すように胸を押さえて、カイが答える。
「少し遠いね。こんな時間に何をしてたの?」
「少し、夜遊びをしてみたくて」
笑って答えた、その顔はまだ赤くて。
その染まった頬に、レイの手が触れる。
「可愛いね」
とても優しい笑顔。
すごく、すごく、かっこいい。
「そんな」
かっこよすぎて。
ストライクすぎて。
少し泣きそうで。
何故、自分は女じゃないのだろう。
近い、相手の顔を見ながら
そんなことを考えた。