過去拍手文
□敬愛する貴方へ
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ラウスブルグ内をバタバタと騒がしく走っているのは、機械人形三姉妹ことアプセット、ローレット、ミリネージ。
皆一様に心配そうな表情をし、とある部屋を目指していた。
「「「教官!」」」
扉をノックするわけでもなく、蹴破る勢いで室内になだれ込む。
三人に『教官』と呼ばれた男は、心底迷惑そうな表情を浮かべた。
「勝手に部屋に入んじゃねえっつってんだろうが」
「何を仰いますか!教官がお怪我をしているかと思うと、ノックをしているような余裕などありませんわ!」
「あーっ!また包帯グチャグチャに巻いてるー!こういうのはぁ、ミリィ達にお任せだよ♪」
「負傷程度確認……比較的軽傷、無事デ何ヨリデス」
「一辺に喋るな……」
矢継ぎ早に放たれる言葉に、眉間の皺を深くして露骨に嫌そうな顔をする男。三人はそれに構わず、乱暴に巻かれた包帯を解き、未だに血が流れている箇所も含めて適切な処置を施していく。
抵抗することを諦めた男は、気だるそうにその様子を眺めていた。
そして、大きな溜め息を一つ。
「この程度の傷なんざ、放っておいても問題ねえんだが……」
「駄目ですわ!傷口からばい菌が入ったら大変ですもの」
ローレットの強い口調と真剣な表情を、暫し無言で見つめる。
何故こうも真剣に反応をするのか訝しがる男に、アプセットとミリネージも、傷の処置をしながら静かに口を開いた。
「……ろーれっと姉様ニ同意。最優先事項、治療行為……BECAUSE、傷……残シテホシクナイデス。御自愛下サイ……」
「教官はぁ、ミリィ達の大切な人だもん。怪我してたら心配だもん」
普段とは違うしおらしく真摯な態度に、流石の男も些か閉口する。
僅かな間を空け、開いている手を使って煙草を咥え、火を点けた。溜め息のように煙を吐き出した後、煙草を咥えたまま一言。
「……勝手にしろ」
声だけを聞けば、煙草を咥えたままという状態も助けて、不機嫌この上ないように聞こえる。
だが、紫煙でぼやける口元には僅かにだが──確かに、微笑が浮かんでいた。
それに気付いた三人は、互いに顔を見合わせる。
そして微かにではなく、見ればそれとわかる程──幸せそうに笑った。
敬愛する貴方へ
(包帯の巻き方は俺と大差ねえよ)