過去拍手文
□策士策に溺れる
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新しい研究における理論の組み立てに行き詰まっていたミントは、以前は敵対していた男に助力を求めていた。
相変わらずの仏頂面だが、意外にも承諾してくれた。それは少し前のこと。
その後ミントは急用で数時間家を空けていたのだが、戻ってきて目にした思わぬ様子に目を丸くする。
「寝てる……」
長髪の男は椅子の背もたれに体を預け、静かに寝息を立てている。頼まれていた作業は終わっており、それから眠ってしまったのだろう。
初めて見るこの男の寝顔に、ミントはつい見入ってしまった。
(こうやって改めて見ると、やっぱり格好いいなあ……。恋人とか、いるのかな……って、何考えてるんだろう私……!?////)
自問自答でパニックに陥り、顔を赤らめるミント。
頬に手を当てたり、恥ずかしさにしどろもどろになったりと、端から見れば挙動不審すぎる。
兎に角起こしてあげた方がいい筈!と自分に言い聞かせ、寝ている男の側へ歩み寄る。
男と距離が近付いたことで、ミントの心臓は早鐘を打ったようになっていく。
もしかしたら聞こえるのではないかと思う程に、胸の高鳴りは強くなっていく。
(普通に起こせばいいだけだよ。普通に…普通に……)
頭ではわかっていても、知らずの内に体が緊張で強張る。
平常心と思えば思う程緊張してまい、声をかけられぬまま距離だけが縮まっていく。
ミントの顔は文字通り男の顔の目の前。その事実が更にミントの鼓動を速め、正常な思考力を奪っていく。
ミントの頬はこれ以上無いくらいに紅潮し、男の唇とミントの唇の間隔が徐々に、だが確実に詰まっていき……そして……。
「ミントさーん!「狽モぁいっ!?!?」」
外から聞こえたグラッドの声に、ミントは凄まじく焦った様子で返事をする。
そして脱兎の如く室内を後にした。
ミントが室内から完全に離れた直後――男はゆっくりと眼を開け、煙草をくわえて火を点けた。
深く吐き出した紫煙を眺め、クックッと喉の奥で笑いながら一言。
「……やっぱり、俺から攻めるべきだったか……」
策士策に溺れる
(甘い香りは狼の罠!)