過去拍手文

□今はまだ、一方的なこの想い
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うららかな日差しが暖かく降り注ぎ、風は柔らかく吹き抜けていく。
ポムニットは最近暇を見つけては、町の外れの草原へと足を運んでいた。



(今日も会えますでしょうか…)



目的の場所──いや、正確には目的の人物がいるであろう場所目指して歩みを速める。
そして辿り着いた目的地、願いが通じたのかどうなのか、目的の人物は確かにそこにいた。



後ろで束ねられた赤茶色の髪を風に揺らし、不機嫌そうな様子で紫煙をくゆらせる男。
ポムニットは高鳴る胸の鼓動を抑えつつ、その隣にに歩み寄る。



「……テメエも暇だな。わざわざこんな場所に通い詰めるとァ」
「ひ、暇だから来てるわけじゃありません!ちゃんとお仕事を片付けて、時間を見つけて来てるんですっ!」
「ハッ、そいつァ御苦労なことだ。呆れを通り越して感心するぜ」
「狽ヲうぅぅ……!」



痛い所を突かれ、涙目になりしょげるポムニット。男はそれ以上何も言わず、ただクックッと喉の奥で笑っていた。
気を取り直し、ポムニットは男の横に腰を下ろして、今日起こったことやら他愛も無い話をする。
男は相槌こそ打つものの、聞いているのかいないのか判断しかねる様子で煙草をくわえていた。



「お嬢様の言葉使いには、ほとほと手を焼いておりまして……狽!も、申し訳御座いませんっ!またわたくしめ一人で愚痴のようなことを……」
「あ?んなもん今更だろうが。それに……まァ、暇潰しにはなる」


その素っ気なくも気を使ったような返事に、ポムニットはぱっと男の顔を見る。


「あの……本当に、迷惑では御座いませんか?」
「さあな。暇潰しになるとァ言ったが、迷惑じゃねえとは言ってねえぜ?まァ、テメエで勝手に判断するんだな」



悪戯っぽくも加虐的なその瞳に、ポムニットはむうっと頬を膨らませる。

暫しの間を置いて、何かを決意したように男の瞳を見返し、頬を染めながら精一杯口を開いた。



「では、勝手に判断させて頂きますからね!もう暫く、わ、わたくしのお話しに付き合って下さいましっ」
「……好きにしろ」



細められた赤茶色の双眸には、優しげな光が湛えられていて。
初めて見るその表情に、ポムニットの胸の高鳴りは一層強くなった。




今はまだ、一方的なこの想い

(竜の卵はまだ来ねえか……)

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