過去拍手文

□歪んだ世界が紡ぐ歯車
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突然姿を現した男が、静かに言い放った言葉──。



「俺と一緒に来ねえか?」



ポムニットは警戒する素振りを見せていたが、その言葉に心は揺れていた。

あの日、町外れの草原で出会った男。一目見た時から心惹かれ、毎日足を運んではやや一方的ながらも時間を共有した。
不遜で棘のある言葉の中、時折見せる優しい笑みに魅了され、想いは強く募っていったのだが──。


男は竜の子を狙う者だったのだ。
見知ったポムニットにすらも、何の躊躇もなくその刃を向けてきた冷徹な相手。



「わたくしめが皆様を裏切るとお思いですか?」
「そうだな。テメエはそうかもしれねえが、連中はテメエの正体を知ったら──どうするんだろうな?半分とは言え、悪魔だと知ったら……な」
「……っ!な、何故そのことを……!?」



驚愕し動揺するポムニットを余所に、男は表情を変えず煙草に火を着ける。
深く煙を吐き出した後、男はゆっくりと言葉を続けた。
「こっちにはテメエと同じ境遇の奴らがいる。テメエのことを、喜んで迎えてくれるだろうよ」
「ですが、わたくしめには……今の日常と皆様が……」
「……無意識のうちに断定してねえことこそ、テメエ自身、連中を完全に信用してねえっつう何よりの証明だと思うが?」
「そんな……わ、わたくしめは……」



真紅の瞳を震わせ、自分自身に問い掛けるように俯くポムニット。男はそんなポムニットに歩み寄り、顎をくいと持ち上げる。
加虐的な光を宿す赤茶色の瞳と、動揺に潤む真紅の瞳が交差する。



「俺と一緒に行かねえか?……なあ……ポムニット」






ああ……お嬢様、お坊ちゃま、ライさん、フェアさん、皆様──。



わたくしめはもう、この方に心を捕らわれてしまいました。

皆様と過ごした日々と想いを裏切ってまで、この方の元へ走るわたくしめのこと……蔑んでも、嘲笑って下さっても構いません。




この方はわたくしめのことを想って下さっているわけではなく──本当の思惑は、違うところにあるのでしょう。
それでも、わたくしめを見て下さるのなら……ずっと隣にいて下さるのなら──。





「かしこまりました……貴方と一緒に…参ります」




歪んだ歯車が紡ぐ世界

(裏切りの見返りは、あまりにも甘美で)

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