過去拍手文
□白き蝶は朱に染まりゆく
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明るい日の光が降り注ぐ、うららかな午後──街の一角にある緑溢れる家には、珍しい来客の姿があった。
「いやいや、すみませんねえ。往診に来ただけなのですが、わざわざお茶をご馳走になってしまって……」
「あ、どうぞお気になさらず。オヤカタもただの風邪だったわけだし……それに、今日は午後から休診でしょう?」
「そうですが……まあ、折角ですからご好意に甘えさせて頂きましょうか」
そう言って紅茶を一口啜り、目を伏せつつも口元に笑みを浮かべた。
ミントも紅茶に口を付けるが、不意に言われた一言に、つい噎せそうになる。
「やー、こんなに綺麗な方とお茶を一緒に出来るとは、私は実に幸せ者ですねぇ♪」
「狽ヘ……いっ!?////」
「あっははー。いやしかし、美味しい紅茶ですねコレ」
先程言ったことを意にも介さぬ様子で、飄々と笑みを浮かべる。
ミントは曖昧に返事を返し、赤く染まった頬を隠すかの様に顔を俯かせ、紅茶と睨み合う。
その様子をニコニコと眺める男の視線に気付き、ミントは更に顔を赤らめた。
「ミントさん、申し訳ないんですが、紅茶のお代わり頂けますか?」
「……」
「あのー、ミントさん?もしもーし…」
「ふぇ……!?あ、は、はいっ!」
「ボーッとしてるようですけど、大丈夫ですか?もしかして、オヤカタから風邪を貰ったとか……」
「い、いいえ、何でもありませんよ。あっ、お湯が冷めてるようですから、沸かしてきますね。ちょっと待ってて下さい」
普段のおっとりした口調からは考えられない程の早口でまくし立て、ポットを掴んで奥の台所に消えていくミント。
残された男は、ただ苦笑を漏らすのみだった。
台所に向かったミントは湯を沸かすでもなく、自分の頬に両手を添えていた。
相手がああいうことを平気で口にする性分だということは、十分理解しているつもりだったが──面と向かって言われると、どうしても狼狽えてしまう。
それに加えて、二人きりという状況と、相手に対して抱いている想いも相俟って、過敏に意識させられてしまうのだった。
「ああいう台詞は、こっちの気持ちに気付いてから言ってほしいよ……」
白き蝶は朱に染まりゆく
(紅茶、まだですかねー……)