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□響くは雨音と鼓動
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ベッドに横たわる金髪の男は、普段より幾分か顔色が悪い。
その横ではコーラルが椅子に腰掛け、男の額に濡らしたタオルを乗せていた。



「まさに医者の不養生、かと」
「あははー、反論出来ないのが悲しい所ですねぇ」



苦笑気味だがあっけらかんと認める様子に、コーラルは若干呆れたような表情を見せる。



「診療所、どうするの?」
「休みにしますよ。風邪を移す医者というのもどうかと思いますし」
「そう」



短い返事をし、コーラルはそのまま男の側に座った。
落ち着かない様子でチラチラと男の動向を窺い、目が合いそうになるとふいっと視線を逸らす。

そんなやりとりが何度か続き、男がコーラルの様子を不思議に思い出した頃、コーラルが窓を見ながらぽそりと口を開いた。



「あ……雨、降ってきた」
「はー、しかもこの感じだと、暫くは降ってそうですねー」



先程までは崩れかかった曇り模様だったのだが、遂に降り出したようだ。
シトシトと静かに外を濡らしていく雨の音が、微かに室内にも響く。



「コーラル、今日はもう帰った方がいいでしょう。強くなってきたら大変ですよ?」
「え……でも、僕……」
「なんでしたら、私が送っていきますよ。この程度の風邪なら、動くくらい大して負担になりませんし「……駄目だよ!」」



起き上がろうとして上体を起こす男の言葉を強い口調で遮り、コーラルは男を強引にベッドに再び寝かせる。



「寝てなきゃ、駄目。無理するの、よくないよ」
「ですけどねぇ……」
「僕のことなら、心配いらない。雨くらい、平気」



目を丸くする男の顔を覗き込み、辿々しくも真摯に語りかけるコーラル。
言い分は理解できるが、男はどこか心配そうな様子だった。

やや間が空き、シトシトとした雨音が室内に染み入る。
コーラルは「それに…」と言い淀み、僅かに頬を赤くして視線を逸らした。そして、ぽつりと紡がれた言葉──。



「もうちょっと……二人っきりでいたい、かと……」




響くは雨音と鼓動

(僕の頭を撫でた暖かな手が、返事の代わりのようだ)

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