過去拍手文

□本日、修練日和
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トレイユ郊外にある草原に寝転び、ぼんやりと空を眺めるアルバ。
額に浮かぶ汗と、横に置いてある愛用の大剣から、彼が今まで稽古に励んでいたことが伺える。

熱を帯びる体に走る、微かな風の心地良さに目を細めていたその時──清潔感のある白いタオルが、顔の上にふわりと被さった。



「や!」



聞こえてきた軽い挨拶に顔を上げると、そこには見慣れた金髪の医師の姿があった。



「どうしたのさ、こんな場所までわざわざ?」
「完治したとは言え、アルバはまだまだ病み上がりですからねえ。一応様子見に来たのですが……まあ、問題無いみたいで良かったですよー」
「そっか……ごめんな先生。忙しいのに、おいらのために時間を割いてくれて」



申し訳なさそうに礼を述べるアルバに、医師は「いいんですよー」と言い、ヘラヘラと軽い笑みを浮かべていた。
そんな様子に苦笑しつつも、受け取ったタオルで汗を拭うアルバは、ふと疑問に思ったことを口にする。



「でもさ、今は診療時間だろ?診療所をほったらかしにして、こんな場所にいても大丈夫なのか?」
「ええ、今日は診察に来る方の予約も入ってませんしー、暇なんですよー。急患が入ったら、知らせに来るように言っておきましたしね」
「はは、ならいいんだけど。おいらてっきり、サボって抜け出してきたのかと思ったよ」
「もしかしてソレ、嫌味だったりします?」
「あ、いや、そう言うわけじゃないけどさ……ι」



ジトリとした視線を受け、アルバは頬を掻きながら苦笑混じりに弁解する。
一頻りアルバをからかった医師は「さて」と言い、携えていた刀を鞘から僅かに抜き、悪戯っぽく片目を瞑って見せた。



「貴方の怪我の完治確認も兼ねて……どうです?実戦稽古でも」
「ああ、望むところさ!先生程の腕前なら、おいらも遠慮無く、本気で打ち込めるからな」
「やー、そんな誉めないで下さいよー」



ヘラッと笑みを浮かべた後、刀を抜き払って間合いを取る医師。アルバも立ち上がって大剣を抜き、構えを取る。
和やかな雰囲気の中に漂う、微かな緊張感。
さぁっ…と吹き抜けた風を合図とするかの様に──気合いの籠もった掛け声と剣戟の音が、穏やかな草原に響き出す。




本日、修練日和

(おいらの本気、見せてやる!)

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