●心歪み編●

□第九章 〜暗闇〜
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しばらく歩いていると、入江診療所に着いた。

早く、早く、早く…!
早く監督に沙都子の手当てをしてもらわないと!!


「…監督っ!!」


「詩音さん?どうかしましたか───っ!?」


私が切羽詰まった声で叫んだものだから、監督は不思議そうに尋ねてきたが……

私におぶられている沙都子を見て、今がどういう状態なのか。
そして、何故こんなにも焦っているのかを一瞬で理解してもらえたようだ。



「──鷹野さん!」


「…はい!」


監督はすぐさま鷹野さんにアイコンタクトを送ると、鷹野さんは短く返事をして頷き、診療所への奥へと向かって行った。


「詩音さん、沙都子ちゃんを連れてこちらへ…!」


私は返事をする事も忘れて、言われるがままに監督に着いて行った。



早く、早く、早く、早く!
早くしないと、沙都子がっ…!








「……外傷から見て……急性期ですね」


「……はい?九世紀…?」


ああもう、何を言ってるんだ私は…!!
今はそんなバカな勘違いをしてる時じゃないだろ、園崎詩音ッ!


沙都子の一大事なんだ。
もっと真剣に聞かないと!



「……はい。外傷を見て検査したところ、恐らく受傷してから48時間も経っていません。ですが重度熱傷になっている危険性があります」


「じ、重度…熱傷!?」


「…少し難しい話になりますが……血管透過性の亢進により血管から血漿が漏れ、循環血漿量が減少している可能性が高いです」



……少しどころじゃない。大分難しい話だった。
なんせ私は医学にはそんなに詳しくはない。ましてや専門用語なんて分かるわけない。


そんな私に出来る事は、なるべく理解しようと相槌を打つ事と、監督の専門用語には頭にクエスチョンマークを浮かべる事の、二つだった。



「……あとは体液が大量に失われていますね。他には…」


「……か、監督」



私は思わずポツリと呟いてしまった。
そして、口に出してしまった事を後悔した。

……聞きたくない。…でも、聞かないといけない。


…でも。もし最悪の結果を言われてしまったら…と思うと、恐い。


恐い。聞かなきゃ。恐い。聞きたくない。恐い。聞きたくない。恐い。聞かなきゃ。


頭の中でグルグルと言葉が回っている。
それは私に「どうするか早く決めろ」と駆り立てているようで、気分が悪かった。



……私は意を決した。



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