SILVER SOUL

□悲しき性
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俺は歌舞伎町で万事屋を営んでいる。
住んでる部屋は貸し屋で、狭くはないが広いとは言えねぇ。
危ない仕事しか請け負わねぇから金は有り余っているが、出ようとは思わなかった。
その理由は一階にある。
一階はスナックお頭裸という名前の飲み屋がある。
そこには俺の恋人がいるのだ。
つまり、その気になれば毎日会えるという訳だ。
――自分からは滅多に会いに行かねぇけど。
今日もぎしぎしと階段の軋む音に俺は気持ちを躍らせる。
「晋助、良い加減に家賃を払わんか!」
がらりと扉を開けて入ってきたのはズラ子。
何時もの青紫の着物で、朝にも関わらず身支度はバッチリだ。
「あぁ、今持ち合わせがねぇから」
「嘘吐け、お前結構儲かっているだろう。そんなに俺や西郷殿に迷惑を掛けたいのか」
「……」
――お前が此処に催促に来るから出し渋ってんだろォが。
というような本音は絶対言わねぇ。
「あんまり滞納が続くと、他の人に入ってもらうぞ」
ズラ子はちゃっかり俺の隣に座って机の上の茶菓子をごそごそ漁りながら言った。
「あァ?」
「入りたいって言ってる奴がいるんだ」
「そりゃ何処の何奴だよ?」
俺がそう聞くと、ズラ子はさらりと
「金髪のホストだ」
と言った。
「ホスト!?」
「そうだ。結構格好良いぞ」
その言葉に俺は衝撃を受ける。
――まさかその男、ズラ子狙いで、
「なァ晋助」
俺の思考はズラ子の言葉に因って中断された。
「……あ?」
「俺は晋助に二階に居て欲しいんだ」
ちらりと上目遣いでそう言われて、くらりと眩暈がした。
「……分ァったよ」
そう言って俺は財布から家賃分を出し、ズラ子に渡す。
「やっぱり出せるんじゃないか。もう滞納するなよ」
ズラ子はそう言って俺の唇に自分のを重ねた。
あまりの事に俺はソファからずり落ち、その間にズラ子はさっさと部屋から出て行った。
「反則だろう、ありゃ……」
誰に言うともなくそう呟く。
その直後に慌ただしい足音がして、また子が似蔵の散歩から帰ってきた。
何時もの様に傷だらけだ。
「今日も似蔵の奴私の言う事なんか聞かなくて……ってどうしたんスか晋助様?」
俺の状態に驚いたまた子に何でもねェと言い、俺はソファに座り直した。
――何だか知らねぇが得した気分だ。



「西郷殿の言った通りにしたら晋助の奴、簡単に家賃を出したぞ」
「そんな事だろうと思ったわよ。本当男って馬鹿よね」












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