SILVER SOUL

□市松人形
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――騙された。
鏡を見て前髪の一束を摘む。
何とか近藤からは逃げてきたが、こんな姿で外には出れない。
どうしたものかと思案していると、外で俺を呼ぶ声が聞こえた。
――この声は、
嫌だと思いながらも無視する事は出来ず、扉を開く。
ずかずかと無遠慮に乗り込もうとした男は俺の顔を見て螺子巻き人形のようにぴたりと動きを止めた。
「……何だそりゃ?」
「床屋にしてやられた」
そう言うと、にやりと高杉は笑った。
この男の事だから、きっと俺を馬鹿にするのだろう。
そう思っていると、高杉は俺の短くなった前髪を一束掴んだ。
「指名手配犯が床屋、ねェ?」
「仕方ないだろう、切りたかったのだから。まぁ、運悪く近藤と出会してしまったが」
「ふふん」
その事は大方新聞でも見て知っているのだろう、さして驚かない。
「随分とまァ可愛くなって」
薄く笑ったままの顔で言う高杉に、俺は溜め息を吐いた。
「言うだろうと思っていた」
「馬鹿にしてんじゃねぇぜ」
前髪を弄っていた手が、すっと俺の顎に移動した。
ゆっくりと高杉の顔が近付く。
「……だとしても俺は気に入ってない」
ふい、と顔を背けた。
目に掛かり気味だった前髪がなくなった所為か、視界が開けて余計恥ずかしい。
それを分かっているのか、高杉は俺の前髪を掻き上げた。
「デコヅラ」
高杉は喉の奥でくつくつと音を立てる。
「割に似合ってんぜ、市松人形みたいでな」
誉められているのか貶されているのか分からなかったので、
「……五月蝿い男だ」
とだけ言っておいた。












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