SILVER SOUL

□嗚呼、何て愛らしい天の邪鬼
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口を開けば嫌いだ何だと憎まれ口を叩く。
本心とは裏腹な言葉ばかりを紡ぐ、アイツの口。
ふんわりとした唇に象られたそれが、俺には妙に魅惑的に見えた。
「そこを退け、馬鹿者」
俺の下から不機嫌な声がする。
ほうら、また。
「ここから出てくんのは嘘ばっかりだな」
そう言ってその唇を指でなぞる。
桂の眉間の皺が更に濃くなった。
「嘘ではない、本心で退けと言っているんだ」
「へェ、そうかい」
適当に聞き流して、その唇に口付ける。
抵抗は無い。
当然だ、本当は俺を嫌がってなどいないのだから。
最初は優しく、徐々に蹂躙するように貪り食らう。
俺と桂しか居ないこの空間は、下品な水音に支配されていた。
リップノイズを響かせて唇を離すと、艶やかに桂は息を吐いた。
「いきなり何をするんだ、お前は」
そう言って睨み付ける。
抵抗もしなかった奴が何を言うのか。
大体、頬が上気し瞳が潤んでる奴が何を言っても説得力が無い。
「いきなりでも何でもねぇだろ」
「俺は許可した覚えが無いぞ」
「恋人にキスすんのに許可が要るのか?」
「先ず恋人でも無い」
にべもなく俺の言葉を否定する桂。
嗚呼、何て天の邪鬼な奴。
「本当にそう思うのか?」
「え?」
「恋人じゃないってよ」
意地悪く深く掘り下げて聞いてやる。
すると桂は虚を突かれたように目を少し見開いた。
「……あぁ」
「本当に?」
「それは……勿論……」
そう言って口ごもる。
こうやって突っ込むと揺らぐのは俺の事が好きな証拠。
「クク、可愛い奴だ」
「可愛くなどない」
「そうかい」
また軽く流して首筋をぺろりと舐めてやった。
「止めろ、阿呆」
「御馳走さん」
さらりと髪を撫でる。
そして耳に吹き込んでやった。
「俺にだけそういう態度をとるお前が、俺ァ気に入ってんだ」












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