BLEACH

□恋煩い
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「はぁ……」
俺は今日何度目か分からない溜息を吐いた。
そんな俺を見て、隣で寝転がっていた京楽がむくりと起き上がった。
「どうしたんだい?最近溜息ばっかじゃないの」
その言葉に内心ギクリとなりながら、
「ああ……ちょっとな……」
と言葉を濁す。
「ふーん……?」
京楽はそれ以上追求しなかったが、俺は背中にひやりとしたものを感じた。
――原因がお前だ、なんて言えなかった。
お前の事が好きになったなんて。



ことの始まりは、俺が吐血して倒れてしまった時だった。
丁度周りに人が居なくて、倒れた俺に気付いてくれる奴は居なかった。
必死で医務室に行こうとしても気管に血液が入って噎せ返り、また倒れてしまう。
――まずい……このままじゃ……
思いとは裏腹に身体は思うようには動いてくれず、意識が遠退きかけたその時だった。
「浮竹」
聞きなれた声が頭上から降ってきて、身体がふわりと宙に浮く。
「きょ、京ら……」
「大丈夫だよ」
京楽は一言俺を落ち着かせるようにそう言って、そのまま医務室に運んでくれた。



京楽とは親友だった。
ただ、俺を包み込んだ逞しい腕と低めの声で囁かれた「大丈夫だよ」の一言は今まで俺が感じてきた京楽のソレでは無くて。
ああ、俺は今まで京楽の何を見て来たんだろうかと思いつつ医務室の白い天井を見上げていたら、ふわりと頭を撫でられた。
そして奴は何時ものように暢気な顔をして
「今日は絶好のサボり日和だよねぇ」
と呟いた。



そして今に至る。
たったそれだけの事で落ちたんだから、我ながら単純というか短絡的というか。
「呆れる程だな……」
思わずそう呟いてから、俺はしまったと身を強張らせた。
チラと横目で京楽を見ると、ばっちり目線があってしまう。
「ついに浮竹にも思春期到来なのかな?」
「な、な、何が?」
昔から嘘をつくのが下手で、どうしようもない程声が揺れる。
「恋の季節だねぇ。どんなコ?」
「うっ……」
俺は言葉に詰まった。
「お、お前には関係ないだろ……」
「特徴位良いじゃない。それとも、僕に言うのがそんなに嫌かい?」
……絶体絶命。
俺は深く息を吸い、吐き出した。
覚悟を決めるしか、ない。
「いつも授業サボったり馬鹿みたいな事してるけど……いざって時に頼りになって……優しすぎるほど優しい奴、だ」
言い切って、かぁと頬が上気する。
チラッと京楽を見ると、奴は何時もの様に飄々とした顔つきだった。
――あれ、バレなかったか?
自分としては遠回しに告白したつもりだった。
スパッと振られて、諦めるつもりだったのに。
覚悟を決めたのに、何処かでほっとしている自分が居る。
が、次の京楽の言葉を聞いて凍りついた。
「あー、つまりそれは僕が好きって事で良いのかな?」
「……う、え?」
突然の出来事に訳の分からない声しか出せない俺。
そんな俺を見ながら京楽は話し続ける。
「何時もサボってるし、女の子追い掛け回してるし。いざって時に頼りになるかは分かんないけど、君には凄く甘いと思うんだけどなぁ。違ったかな?」
「……えっ……と、」
そんな事言われたら返事が恥ずかしいだろ。
でも――ここで言わなかったら、何時言うんだ。
「実は……お前の事が好きだっ」
そう言い切ってギュッと目を瞑る。
もう覚悟は出来てる。
次に京楽の口から出る言葉はきっと――
「うん。知ってたよ」
……え。
「は?」
我ながら間抜けな声を出して京楽を見る。
「いや……だから知ってたんだよ」
「な……な、な……!」
あまりの事に混乱する俺。
じゃあ、俺の気持ちは京楽にはバレバレだったわけで。
京楽は、そんな俺を見て楽しんでたって事か?
「京楽……お前!!」
「はは……ごめんよ。だって君から言って欲しかったからさ」
「だからって……――え?」
君から言って欲しかった?
そう、言わなかったか?今。
「だから……」
京楽の腕が、身体が、俺を包み込んだ。
「嬉しいよ……有難う」
耳元でそう囁かれて。
思わず涙が零れ落ちた。



暫くして、ようやく落ち着いた俺は京楽に尋ねた。
「嘘じゃないよな?」
「当たり前だよ」
「本当に俺なんかで良いのか?」
「君がいーの」
そう言って俺の頭に置かれた手の温かさは、あの日と同じだった。












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