BLEACH

□盲信
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「何か、つまらんなァ」
以前、市丸ギンはその言葉をよく呟いていた。
凡そ、つまらないと思っているとは言い難い、笑みの貼り付いた顔で。
――何がそんなにつまらないのですか。
よっぽどイヅルはそう聞きたかったが、聞けなかった。
ギンはイヅルに親しく話し掛けている様に見えて、重要な事は何も話さない。
飄々としていて、何を考えているのか全く掴めなくて。
それでもギンはイヅルの「憧れ」だった。
院生の頃、目の前で巨大虚を両断してみせたギンの斬撃を見た時から。
それからイヅルは更に努力した。
得意の鬼道や勉学を伸ばし、苦手な剣技は恋次等に教わった。
辛い日々も、あのようになりたいと考えれば頑張れた。
そしてその日々は、いとも容易くただの「憧れ」を「妄信」に変えてしまった。
元から上の者の言う事を素直に聞く性質である。
三番隊の副隊長になってもそれは変わらなかった。
「つまらんなァ」
「そうですか?」
「うん」
そのような内容の会話を何回しただろうか。
何時の日か、ギンの「つまらない」はぱったりと途絶えていた。
今なら分かる。
あの頃からきっと、藍染惣右介の陰謀が本格的に動き出していたのだろう。
勿論ギンは顔にも態度にも出さなかったけれど。
しかし確かに「つまらない」は無くなった。
――藍染隊長の野望に乗る事は、市丸隊長にとっては面白い事だったのですか。
本当に、そう思って藍染に付いて行ったのかとイヅルは無性に問い掛けたかった。
ギンを信じていた。
例えそれが「妄信」――「盲信」だとしても、信じていた事に変わり無い。
今なら、聞けるのだ。
裏切られて、しかし心の奥底では未だ信じていたいと願っている、今なら。
「あなたは、何がそんなにつまらなかったのですか」



聞いていたら、あの男は答えてくれていたのだろうか。












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