BLEACH

□頼りになる男
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俺は九番隊副隊長、檜佐木修兵。
技術開発局の凄腕義骸職人、阿近さんの格好良い彼氏だぜ。イェイ。
今日は何時もつれない俺の恋人の部屋にこっそり遊びに行こうと思います。
何時見ても趣味の悪いドアノブを捻って技術開発局に侵入。
その奥の阿近さんの個室に忍び込む。
「あれ?居ねぇ」
部屋の中は空っぽで。
「何してんの?修兵君」
突然後ろからおさげに話し掛けられた。
技術開発局に行き過ぎて、顔見知りになっている。
「阿近さんは?」
「あぁ、現世現世」
「現世ェ!?」
阿近さんが外に出るってだけでも珍しいのに、その上現世!?
俺の驚いた顔を見て、おさげはウンウンと頷きながら言う。
「私も最初は驚いたんだけど、まぁ局長の命令だからねぇ」
「涅隊長の?」
それなら阿近さんは絶対に逆らえない。
俺は副隊長なのに酷な扱いを受けてるけど、涅隊長の事は尊敬してるっぽいし。
「でも何でそんな命令が……」
はっきり言って阿近さんが虚退治に向いているとは……いや、そもそもちゃんと出来るとは思えない。
「魂魄がどうのじゃなくて、現世に有る植物を採ってこいって命令なんだって」
「成る程」
要は使いっぱしりにされたって事か。
それにしても、現世デートっていうのも良いかもしれない。
そう思った俺は、早速実行に移す事にした。



「面倒臭ぇなぁ……」
プツン、と手元の草を一本摘み取り、俺はぼやいた。
左手に持ったシャーレの中には、それと同じ草が三、四本入っている。
「こん位で良いか」
現世なんてのは、何時虚が出てもおかしくない。
さっさと尸魂界に帰ろうと、俺はそそくさと立ち上がった。
と同時に、肌にピリッとした感覚を覚える。
寒気がする様な感覚は、明らかに虚の霊圧で。
「最ッ低だな……」
目の前に立ち塞がる巨大虚を見て、俺は思わず顔を引きつらせた。



副隊長の権限を精一杯使い、何とか俺は現世に到着した。
「さぁて、阿近さんは何処かな」
そう呟き霊圧を探る。
最初に見つかったのは虚の霊圧で。
虚はこの地区の担当死神が居るから放っときゃ良いかな、と無視しようと瞬間。
「阿近さん……?」
濃い虚の霊圧の中に阿近さんの霊圧を感じた。
「ッ……!」
理解したと同時に瞬歩で其処へ向かう。
こりゃ急がねぇとヤバいんじゃねぇか!?



無駄にデカい鉤爪が俺に振り下ろされた。
全神経を回避に使用し、横っ飛びに転がる。
ズン、という音がしてさっきまで俺がいた場所には大きなクレーターが。
「……チッ!」
舌打ちをしてそのままダッシュで逃げる。
何でよりによって俺なんだよ、と悪態を吐きたくなる。
自分で言うのはなんだが、俺は死神に大事な斬拳走鬼の達成度の標準値を悉く下回っていると思う。
てか、俺には普段必要ねぇんだけどな?
技術開発局の局員だし……。
虚が逃げる俺に追い付いて二撃目を繰り出す。
再び横っ飛びに避けようとしたが、寸分間に合わず左足を抉られてしまった。
「糞……ッ」
……マジで洒落になんないんですけど。
そのまま立ち上がれない俺に、三撃目が振り下ろされる。
俺はこんな所で死ぬのかと、グッと目を瞑った時。
「“破道の四・白雷”!」
目を瞑っていても分かる眩い閃光、衝撃波、そして虚の断末魔。
助かったという安堵感と共に、なんてタイミング良く現れるんだと感心しながらゆっくりと目を開けた。

「“破道の四・白雷”!」
怒声と共に巨大虚に向けて白雷を発射する。
我ながらナイスタイミングで虚から阿近さんを守る事に成功――と思いきや、阿近さんの左足の傷を見て愕然とする。
「大丈夫ですか!?」
「あー、まぁな」    
阿近さんは左足をチラッと見下げてそう言った。
「とりあえず応急処置しに尸魂界に帰りましょう」
「そうだな」
出血で顔色が悪くなっている阿近さんを見て、俺から一つ提案する。
「お姫様抱っこしましょうか?」
「死ね」
命の恩人になんて酷い言葉を掛けるんだと文句を付けたかったが、殴られそうだったので我慢した。



「遅いヨ阿近!!何時まで待たせるつもりだネ!」
「すみません」
涅隊長にどやされて文句の一つも言わない阿近さんの声をドア越しに聞きながら、俺はやきもきとしていた。
阿近さんが遅れたのは虚に襲撃され、四番隊でその時の傷を治していたから。
――阿近さんは悪くねぇっつうんだよ。
元から涅隊長に良い感情を持っていなかった俺は、思わず部屋に怒鳴りにいこうとドアノブを捻ろうとしたが、その前にサッとドアが開いた。
「……修兵」
「阿近さん」
きっと拗ねた顔をしていただろう俺の顔を見て、阿近さんが口角を吊り上げて笑った。
「何て顔してんだ」
「だって……」
「ああいう時はな、反抗しないのが一番なんだよ」
まぁ、それは分かってるんだけど。
何となく腑に落ちない。
「おら、こっち来い」
「は?」
腑に落ちないまま阿近さんに手招きされる。
「ほらよ」
近付いていくと掌にポトリと煙草の箱が落とされた。
「何ですか、これ?」
「……さっきの礼だ。まぁ貰っとけ」
そう言って阿近さんは机に向かう。
阿近さんに何か貰うのは初めてで、嬉しさがじわじわ溢れ出てくる。
「阿近さーん!」
「調子に乗んな!」
ガバッと抱き付こうとすると、凄い勢いで避けられた。
俺の勢いはおさまらず、机の角で強かに額を打ち付ける。
あまりの激痛に薄れゆく意識の中、霞んだ瞳に阿近さんが何か言ったように見えた。



「さっきは結構頼りになったぜ」












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