BLEACH

□変化
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白い髪が、嫌だった。
幼い頃に大病を患った所為で、色素を失ってそれっきりだ。
白い髪は目立って、何故白いのかと聞かれる事も少なくない。
病気、と答えて、同情の目で見られるのが嫌だった。
――病気なのに、偉いんだね。
一生懸命努力した結果かけられた言葉が、これだ。
病気なんて関係無いのに。
だから、白い髪が嫌いだった。
――あの日、までは。



「ねぇ、浮竹は髪の毛伸ばさないのかい?」
友達になったばかりの、金持ちの御曹司が言ったのは、あまりにも突然の事だった。
「あ、あぁ……まぁ、そうだな」
少しつっかえながら、そう返答する。
伸ばしたりなんかしたら、更に目立つじゃないか。
心の内でそう考えながら、ふーんと答える友に聞き返す。
「何で、そんな事聞くんだ?」
「えー、だって似合いそうじゃない。伸ばしてみない?」
逆にそう問われて、俺は言葉に詰まった。
「で、でもなぁ……」
「浮竹ってさぁ」
そう言ってひょいっと髪を一束つままれる。
「自分の髪の毛嫌いなの?」
「え……」
「図星?」
よしよし、と頭を撫でられた。
何故だかこいつには子ども扱いされる事が多い。
確りしてるつもりなのになぁ、と少し不服な気分になる。
「目立つから、嫌いなんだ」
「それだけ?」
変なところで鋭いこいつは、答え難いところまで聞いてくる。
「……本当は、病気だってバレて同情されるのが嫌なんだ」
俺が俯き加減にそう言うと、相手は何が面白いのかプッと吹き出した。
「何だよ?」
「浮竹に同情?有り得ないねェ……」
「は?」
「僕が授業サボって呼びに来る時の君の顔を見たら、皆同情なんてしなくなるよ」
びし、と指差してそう言われた。
「な、何だと!それはお前が悪いんだろ!」
「あはは、怖い怖い」
ひょいひょいと逃げる友を、追い掛け回す。
しかしその時の俺の気分は晴れやかだった。
同情でも憐れみの言葉でもなく。
初めてそんな風に言って貰えたから。
そしてその日から、俺は髪を伸ばし始めた。



「浮竹、ちょっと一緒に呑まない?」
「あぁ、そうしようか」
京楽に誘われて、月を見ながら酒を呑む事になった。
ちびちびと酒を呑んでいると、京楽が隣でフと笑う。
「――何だ?」
「浮竹の髪は夜に良く映えるなぁと思ってね」
そう言われて、顔が赤くなるのが分かる。
「まったくお前は……面と向かってそういう事を言うなよ」
「何を今更」
京楽が俺の髪を指先で弄ぶ。
あの時よりも随分長くて、クルクルと巻かれたりしていた。
「おい、縺れるから、あんまり――」
文句を言おうとしたら、京楽と目が合って。
見慣れた顔の筈なのに、何故かドキリとしてしまった。
「……浮竹」
「京、ら……」
カコン、と鹿威しの音が響く。
触れるだけの、短い口付け。
「……誰か見てたらどうするんだ」
「浮竹だって、しっかり僕にくっ付いてるくせに」
「……」
近くに居たら、京楽独特の香りがする。
花のような、それでいて深みがあるような。
あの時から、変わらない。
「今日な、昔の事を思い出してたんだ」
「うん?」
「お前が俺に髪を伸ばせと言った日だ」
俺の言葉に、京楽が懐かしそうに目を細めた。
「随分とまた、懐かしい話だね」
「……お前がああ言ってくれなかったら、俺は自分の髪が嫌いなままだった」
京楽は少し目を開いて、片手で俺の髪を梳かした。
空いている方の手で酒をクイと飲み込む。
「――嬉しい事言ってくれるじゃないの」
「俺が、嬉しかったんだ」
「じゃあ、アレだ」
コトン、と猪口が置かれ。
「両想いって事で、今夜はちょっと遊びましょうか」
「楽しいか?こんなおっさん抱いて」
「勿論」
即答されて、また顔の赤みが戻ってくる。
昔の事を話して、京楽が驚いたところに優位に立とうとしたのに見事に失敗だ。
だから子ども扱いされるのかもしれない。
「――仕方ないな」
「あれ、良いんだ」
京楽が驚いた様に言う。
「酔ってるんじゃない?」
京楽の言葉にそうかもな、と頷きつつ、まァ今日位良いだろうと俺は猪口に残った酒を飲み干した。



白い髪は、もう随分前から嫌いじゃない。
俺の大切な人が、好きだと言ってくれるから。












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