BLEACH

□苦労人
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院生時代からの付き合いで
「だから……大変で……」
金髪碧眼の
「もう疲れて……」
後輩の愚痴に、俺は何故か付き合っている。
「じゃ、ないですか?檜佐木さぁん」
「まぁ、確かに市丸隊長は仕事しなさそうだしな」
酒に酔って呂律の回らない口で日々の隊長への苦情をつらつらと並べている後輩。
いかにも気が弱そうな顔付きだし、実際そうなので隊長本人には強く言えなくて相当ストレスが溜まっている。
ウチの隊長は確りしているので、そんな事は無い。
「凄い人らっていうのは分かるんれすけど、仕事位はきっちり……」
「おい、お前飲み過ぎだぞ……」
「そんらことないれすよ」
何時もは青白い顔を桃色に染めて、又酒を注ごうとするのを、俺は慌てて止めた。
「止めとけっつってんだろ!」
「お酒でも飲まなきゃ……やってらんないんれすよ……」
「……」
確か、吉良は良いとこの坊ちゃんだ。
そういう奴程酒癖が悪い……様な気がする。
素の時は、真面目過ぎるという程真面目なのに。
……否、それの反動か?
「兎に角、もうそれ以上は……」
「……」
「吉良?」
「……すぅ」
何時の間にか酔眠中だった。
仕方なく馬鹿みたいに軽い身体を持ち上げて、三番隊の隊舎まで向かう。
市丸隊長には会いたく無いと、心の中でこっそり祈った。



「あっれぇ?檜佐木君やんか」
「……どうも」
ばったりと、市丸隊長に会ってしまった。
狙って出て来ているんじゃないかと思う程、ばったりと。
「あーあ、イヅル、べろべろに酔っ払って。どうしたん?」
「いえ、ちょっと……」
貴方が元凶の愚痴を聞いていたんです、何て言えない。
はぐらかした事が見え見えの様で、市丸隊長の視線が妙に恐い。
「そ、か。何やイヅルが迷惑掛けたみたいで」
「大丈夫です」
「イヅルー、起きや」
市丸隊長が吉良の耳にそう囁く。……と、
「い、市丸隊長ぉ!」
「のぉわッ……!」
ガバッと吉良が起き上がり、バランスを崩した俺はそのまま倒れてしまう。
「痛ぇ……」
「ひ、檜佐木さん?」
見事に俺を下敷きにした吉良は、初めて俺の存在に気付いた様だ。
そんな吉良に、市丸隊長は常に湛えている笑みを更に面白そうに崩しながら近付く。
ビクリ、と吉良が少し後退った。
どうやら酔いは吹っ飛んだようだ。
桃色だった顔が、今や元の青白い顔に――否、あれは青ざめているだけかもしれない。
「アカンなァ、先輩に迷惑掛けたら」
「す、すみません……」
副隊長に多大な迷惑を掛けている自分を完全に棚に上げ、吉良を叱咤する様な言葉を掛ける。
本当に言葉通りにそう思っているとは思えないが……。
「ホンマにゴメンなぁ檜佐木君。此処までお疲れ」
突然市丸隊長は座り込んでいた俺に声を掛ける。
表面上は労いの言葉だったが、裏にははっきりと「帰れ」と言う意思が感じられた。
「じゃ、じゃあ俺はこれで……」
「さいなら」
市丸隊長の笑顔に多少怯えながら三番隊から逃げる様に出る。
その時一度だけ見た吉良の顔は怯えた様に真っ青だった。
……御愁傷様、吉良。
愚痴なら何時でも聞いてやるからよ。



吉良の愚痴を聞いてやる事になったのは、その三日後だった。












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