SILVER SOUL

□生真面目な君
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真面目な奴は敬遠されやすい。
また、子供の頃なんかは唯真面目だというだけで苛められたりもする。
こいつがその良い例だ。
「高杉、今日は俺とお前が雑巾係だぞ」
「面倒臭ェ……」
「面倒臭いじゃない!」
冬場の雑巾がけは辛い。
誰もが適当に済ませてしまうこの掃除を、桂は生真面目に最後迄やり遂げる。
そういう姿が、他の奴には良い子ぶりっ子をしていると見て取られるのだ。
今回もそうだった。
ばしゃり、と水音がして、続いてバケツが転がる音。
「あぁ、悪ィ悪ィ。バケツに躓いちまった」
「……」
低い姿勢で雑巾を掛けていた桂は頭から汚い水を被っていた。
勿論、躓いたなんてのは嘘。
バケツを思い切り蹴っている所を俺は見た。
「お前等な……」
「良いんだ、高杉」
流石に見かねて文句を言ってやろうとした俺の言葉を桂が遮る。
「着物を着替えてくるから待っていてくれ」
そう言って走り去っていった。
「何だよ、お前あいつの肩持つのか?」
バケツを蹴った奴等が不満気に唇を尖らせる。
俺はそいつ等をじろりと一瞥し、
「少なくともお前等の肩持つ気にはなれねぇな」
くるりと踵を返して桂の後を追った。



ばさりばさりと水音のする方へ向かうと、桂が井戸水を頭から被っていた。
汚れた水を洗い流すためだろうが、見ているだけで寒い。
拭く物もねぇのにどうするつもりだ馬鹿、と思いながら話し掛ける。
「着物、どうすんだよ」
「銀時のを借りる」
素っ気無く桂はそう答えた。
平静を装っていても唇は真っ青で、このまま放っておいたら風邪をひくだろう。
「今日はもう帰れよ。俺が先生に言っといてやるから」
「良いんだ。未だ掃除も終わってないし」
「そんなんさっきの奴等にやらせりゃ良いだろ」
「それは駄目だ」
全く俺の言う事に耳を貸そうとしない。
そんな桂に次第に俺も苛立ってくる。
「お前がそんな事ばっかり言ってるからさっきみてぇな事になるんだ」
「ああいう手合いは放っておけば良いんだ。それに、何を怒っているんだ?」
「五月蝿ぇ」
言い捨てて桂に背を向けた。
自分の身体を省みないという事に無性に腹が立つ。
苛々する俺に、笑いを含んだ声が掛けられた。
「俺を心配しているのか?」
「なっ……」
慌てて振り返ると、何時も仏頂面の桂が微笑んでいた。
――余裕、とでもいうのだろうか。
今の笑顔で、こいつが俺よリも少し大人なんだという事に気付かされた。
「う、五月蝿ェな!心配なんかしてねぇよ!」
認めたくは無いが、どうやら奴よリも子供な俺は怒鳴って誤魔化し。
「そうか」
「待てよ!」
さして気にも留める素振りも見せない桂の後を俺は追いかけた。
「何だ?」
「さ、寒そうだから手伝ってやるよ!!」
握ったままだった雑巾を前に突き出してそう言うと、
「お前も大概真面目だな」
と呆れた様に言われた。
――阿呆か。俺は糞真面目なお前が好きになっちまっただけなんだよ。
そういう事は勿論口に出して言えず、唯悴んだ手を息で温めることしか出来なかった。












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