SILVER SOUL

□a hot day
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桂は最近悩んでいた。
今は夏真っ盛り。
焼け付く様な太陽の陽射しが雲に隠される事無く連日降り注いでいて、ハッキリ言ってバテていた。
桂はクーラーがあまり好きでは無く、滅多な事が無い限りつけない。
プールや海に入って涼みたいと思うのだが、かと言って指名手配されている桂が入りに行ける筈も無く。
「暑い……」
今日も桂は団扇でパタパタと扇ぐのだった。
そんな時、表で戸を叩く音がする。
真選組かもしれない、と警戒して戸を開けると、其処には包帯で片目を隠した男が立って居た。



包帯の男――高杉は畳の上に寝転がり、寛いでいた。
「おい、クーラー有るくせに何で使わねーんだ」
「クーラーは冷え過ぎる。団扇で充分だ」
そう言いながら桂の額に汗が伝っているのを高杉は見て取った。
に、と高杉の口元に意地の悪い笑みが浮かぶ。
「ところで高杉、何の用――「なぁ、ヅラァ」
桂の言葉を遮り、高杉は団扇を取り上げる。
慌てて取り返そうと身を乗り出した桂を、高杉は軽いフットワークで避けた。
バランスを崩した桂は畳の上に沈没する。
「……何をする、高杉」
「暑そうだなァ、ヅラよ」
高杉は起き上がりかけた桂に覆い被さる。
「……更に暑苦しいわ。それにヅラじゃない、桂だ」
動揺した様子も無くお決まりの台詞を吐く桂の上で、高杉は喉の奥でククッと笑った。
「髪の毛、邪魔そうだな?」
そう言って桂の顔に貼り付いていた髪の毛を掴み、指先で弄ぶ。
「……兎に角。早く俺の上から退かないか、高杉」
「嫌だね」
「――いい加減に……ンんっ!?」
高杉が何時まで経っても退く気配が無かったので、桂が痺れを切らしかけたその時、荒々しく口付けられた。
突然の事に桂は呼吸困難に陥りかける。
「……ん…っ…は……高杉!」
無理矢理高杉を引き剥がした時、どちらの物とも分からない液体が二人の唇を繋いだ。
それを見た桂は慌てて口を拭う。
その顔は耳までほんのりと赤く色付いていて。
「暑いならその着物も脱いじまえよ」
その赤くなった耳にいやらしく囁いて、高杉は桂の着物に手を掛けた。
「高杉!お前一体何しに来たんだ!?」
全力で高杉の手を阻止しつつ、桂は半ば叫びながら言う。
そんな桂を横目で見ながら、高杉は桂の着物の帯をするりと解いた。
その帯を遠くに投げ捨て、高杉は答える。
「そりゃ、こういう事しに来た……?」
「何故疑問符が付くんだ……軽い気持ちで何時もお前はこういう事をしてるのか?」
「……へぇ?」
拗ねた様に横を向く桂を見て、高杉はニヤリと笑う。
「じゃあ本気なら、良いのか?……小太郎」
最後の台詞は桂の耳に甘やかな声で囁かれる。
熱い吐息と共に吹き込まれた、何時もは呼ばれる事の無い名前に、桂はピクリと反応した。
最初から赤かった顔が、更に紅潮している。
「俺がこういう事してんのは、お前だけなんだぜ?なァ……小太郎」
高杉はそう言いながら着々と桂の着物を肌蹴させていく。
桂はそれを止めようとするが、思う様に力が入らない。
そうして高杉は露になった桂の鎖骨に、白い肌に、次々と赤い印を付けていった。
着物は最早衣服としての働きは行っておらず、只の布切れと化している。
「ッ高杉……!やめ……」
「ここまできて止めろ、はねぇよな?」
そう言って高杉が桂の白い太股に触れた、その時。
――ガツン!!
「っ……!?」
高杉の頭に凄まじい衝撃が走った。
あまりの事に、思わず桂の上に倒れ込む高杉。
その背後には、ペンギンに似た宇宙生物の姿が在った。
「エリザベスッ!」
肩を震わせ痛みに耐えている高杉の下から抜け出し、桂はエリザベスの元に駆け寄った。
「……てめー……」
見えている方の片目で有らん限りの憎しみを視線に込めるが、エリザベスは何処吹く風である。
その間に、桂は乱された着物をきっちりと着直していた。
「全く……助かったぞ、エリザベス」
『危ない所でした』
桂がそう言うとエリザベスはサッと何時もの看板を出してそれに答える。
その看板の先には僅かに血痕が付着していた。
「ん……?若しかしてこれで殴ったのか?」
桂の言葉に、エリザベスは慌てて看板を隠した。
「オイ、幾ら何でもそれはやり過ぎ……ぅおっ!?」
看板を良く見ようと近付こうとした時、突然後ろに引っ張られて桂はバランスを崩す。
其のまま高杉の腕の中に倒れ込んだ。
「たっ、高杉!お前……」
「今日の所は仕方ねェ、帰ってやるよ」
慌てて桂は逃げ出そうとするが、高杉のその台詞に驚いて腕の力を弱めた。
「か、帰るのか?」
「あぁ。あのペンギン野郎の所為で興醒めだぜ」
「そうか……」
桂がホッとした様にそう言う。
それを見た高杉は、サッと桂の耳に口付け、
「さっきの続きは次会った時な」
「んなっ……!?」
桂が振り向いた時にはもう、高杉は玄関の戸を開いていた。
その背に向かって桂が叫ぶ。
「もう用も無いのに来るんじゃないぞ!」
「さて、どうだかね」
振り返らずに片手を挙げて高杉はそう答えた。
ピシャリと音をたてて戸が閉められる。
「……行ってしまったな、エリザベス」
『残念ですか?』
「まさか。アイツが来ると色々大変だ」
そう言いながら桂は落ちていた団扇を拾った。
パタパタとそれで扇ぐ。
「……今度アイツが来た時はクーラーをつけてやろう。なら文句も言えまい」
ぺたんと畳に座り、口の端でひっそりと笑ってそう言うのだった。












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