Sugar Holic

□役割を分担します。
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「…ふぁあ!眠……」



私の部屋に窓から光がさす。

それが見事にカーテンを通り越して私の顔のあたりに軌道を補正する。

私は一度は上半身を起こしたのだけれど、眠くって重力に逆らえずそのまま再びベットへボスンと体を預ける。

ぼんやりとしか風景を映さない目を閉じれば、代わりに聴覚や嗅覚がより正確に機能する。




「んぅ……」



おおかた家の近くの電柱に止まっているであろう、鳥ちゃんのさえずり。

おいしそうな朝ご飯の香り。

そして、近くでこんこんとドアと何かがぶつかる音。

重たい瞼を頑張って開かせると、目の前には黒と白っぽい何かがぼんやりと見える。





「………アレ」

「おはようございます、藤原先輩」

「オハヨウゴザイマス」




ぼんやりとした視界がだんだんクリアになって、映しだされたのは眉目秀麗な同居人だった。







ガチャリ。

ドアノブを捻って洗面所に行く私。

さっきは部屋着姿だったけど、ちゃんと着替えて。

私は洗面所についている大きな鏡で自分の状態を見て、穴に埋まりたい気分になった。

目は半開きだわ、髪はぼっさぼさもいいとこ、女性の寝起きとは酷いものだと私は項垂れた。

しかもその状態を後輩に見られてしまった。

よりによってあのイケメン後輩に。

敦辺りに見られるんだったら全然気にしなくてもいいのに、と恥ずかしさを紛らわすように手ですくった水を顔にかける。

顔をタオルで拭いた後、私は鎖骨辺りまである髪をサイドで一つに束ねる。

そしてリビングに向かうと、テーブルには既に美味しそうな朝食達が並んでいた。





「あ、今ちょうど準備ができたところです」

「ごめんね、私朝に弱くって…」




氷室くんの爽やかなスマイルに再び寝起きの自分の顔が脳裏を巡って頬に熱が集まる。

苦笑いをする私に気づいたのか、氷室君は申し訳なさそうな表情をする。




「さっきはすみません。一応、ノックはしたんですが…」

「ああ、いいのいいの!私が悪いんだし」

「でも、朝弱いなんて先輩も可愛いですね」




にっこりという氷室くんにフリーズする私。

なるほど、こうして氷室くんは多くの女子を虜にして言った訳だ。

あやうく惚れるところだった、と私は氷室くんの向かいに腰を下ろす。





「ありがと。それじゃあ頂きます」

「どうぞ、召し上がれ」




なんだか氷室くんがいい奥さんに見えてきたなぁ、なんて男性には失礼なことを考えながら食事を口に運ぶ。




「…このサラダ、美味しい」

「ありがとうございます。調味料とか食材勝手に使っちゃったんですけど」

「大丈夫!それにしてもこのドレッシング美味しいね。これどうしたの?」





私は料理に舌鼓を打ちながら氷室くんに聞く。





「あ、これは自分で作ったんです」

「自分で!?」

「はい」

「うわぁ…。氷室くんって本当にすごいね」

「そんなことないですよ」



ぱくぱくと食べる私にはにかむ氷室くん。

彼の女子力はきっと私の女子力の倍以上に違いない、とかくだらない事考えながら朝食を終えた。



*





かちゃかちゃと食器を洗う音と、蛇口から出る水の冷たさが心地よい。

今朝は氷室くんが朝ご飯を作ってくれたので、今度は私が皿洗いをする番だ。

隣では氷室くんが昨日の私のように、洗い終わったお皿を拭いてくれている。

ひとつひとつの仕草でも惚れ惚れしてしまう。




「藤原先輩?」

「ああ、ごめんね。何でもないの」



いかん、見惚れ過ぎてしまった。

美しいって罪ね、とか少女マンガみたいなフレーズを思い出していると、手元にはもう皿がなかった。



「これで終わりだよ」

「はい」



手渡した皿を氷室くんが丁寧に拭く。




「お疲れ様。ありがとうね」

「いいえ」



私は濡れた手についている雫をシンクで払い落してからタオルで拭く。

そして、テレビの前にあるベージュのカウチにボスンと体を預ける。



「あー、眠いー」



そういいながらだらんとしていると、氷室君も隣にやってくる。



「先輩って本当に朝に弱いんですね」

「そーなの。だから朝練のときとかはベットの周りにはアラームが3個くらいあってさ」

「3個……」




流石にそこまでとは思っていなかったらしく、軽くびっくりしている氷室くんに私は笑う。





「これ言うと皆びっくりするんだよねぇ。私その気になればいつでも寝られるよ」

「そんなに?」

「そんなに」



そう答えた私に、今度は氷室くんが笑った。




「じゃあ、今度から俺が朝食の担当しましょうか?」

「え、悪いよ!大丈夫、その気になれば起きることも出来るから!」

「でも、先輩朝弱いんですよね?」

「う゛っ」



言わなきゃよかった、とにこにこしながら提案してくれた氷室くんを見る。




「先輩、俺は住ませて貰ってる身ですから、これくらいはやらせて下さい。
むしろ、先輩こそ遠慮なく申しつけて貰っても…」

「…氷室君も言うタイプだね」

「はい」



彼のスマイルには勝てそうにない。
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