絞殺
□いち
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分厚い靴底がコンクリートを踏むたび、重たく鈍い音が静寂に落ちる。
ベルトやチェーンはジャラジャラとぶつかり合い、ゆるいシルエットが揺れながら道を行く。
ふわりふわりと風に揺らめきながら靡く染めた事のない真っ黒な髪は、周囲の黒と同化しそうでその艶が邪魔をする。
暗闇の中でも視覚を失わず真っ直ぐに歩き進める彼のオッドアイには、しっかりと先が見えているようだ。
赤と灰の両目が、白い肌と黒い髪に映えて、さながら絵画のように見える。
脹脛までのブーツは皮素材で、冒頭の通り靴底が厚い。
8センチ程度の高さの太いヒールも、綺麗目な顔立ちの彼にはとてもよく似合っている。
全体的にだぼっとした服装でありながら、黒基調に紫の差し色、シルバーのアクセサリーなどでのハードな演出。
いうなれば、ゆるロックが的を得ているだろう。
そんな服装を好む彼も又、その服装をそのまま人にしたような性格をしている。
安全ピン、ピラミッドスタッズ、チェーン、ジッパーは彼の普段着には必ず顔を出す。
フードやボート襟は良く着ている。
寒くなれば黒いファーフードの猫耳のついたロングコートを羽織る。
服装の紹介になってしまったが、まあつまりは、服装そのままの正確である。
ゆるく激しく少々狂っていて、猫のように気紛れに彼方此方へと行ってしまうような。
ごつ、ごつ、とヒールが音を立てながら彼の後を追う。
廃ビルが立ち並ぶ裏歓楽街を歩く彼は、その街を熟知しているようだ。
ちらちらと見えていた灯りはだんだん減って行き、ぽつりと淡く灯を放つ一軒の建物の前まで行くと、おもむろにドアノブに手を延ばし、迷う事無く引いた。
入店を知らせる小さなベルが扉にぶつかりよく通る音で鳴る。
音に反応した中にいた男達が、扉に注目する。
そして、そこに立っていた彼を見て、密かに色めきだった。
「ーーナギさん!」
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