Nobel

□妄想殺人と愛
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どうすんのこれ。殺しちゃったじゃん。





心よりも先に手が動いてしまうことが何度もあった。形のない光の輪郭をなぞるようにしてそれは沸き上がり、気が付くともう目の前の敵や仲間は絶命してしまっている。でも手癖が悪いからといって困ったことなんて一度もなかったし、きっとこれからもそうなのだと思っていた。

人を愛する気持ちと人を殺めるときの感情は何処と無く似ていると俺は思う。だからなのか人を殺めたときは強すぎるほどの愛情?(いやそんな生ぬるいものではなく)同情?(そんな感情もはなからない)そうだ、愛や恋とは少し違うがセックスの時の高揚感と似ているのだ。腹の中身をじんわりと圧迫されている感じ。堪らない。

俺は少し前に愛とは何かを学んだ。愛しいのだ。心の底から愛しくて自分のすべてをさらけ出したいと思えた。少しの間会えないと寂しくて、夜は一緒じゃなければ眠れなくて、触れてほしくて、好きだと言って欲しくて、セックスをしたい。これは完全に愛だろう。その行為を覚えてすぐ俺は阿伏兎を殺した。内蔵を圧迫される度阿伏兎を切り裂いて、絶頂を迎える度阿伏兎を殺した。その数おおよそ690回。阿伏兎は690回とも違う死に方を見せてくれた。俺の勝手な妄想の中でも阿伏兎は俺が退屈しないように俺が飽きてしまわないように気を回してくれている。律動が早くなるに連れてちらちらと目の前に光が散る。ちらちらと血が流れる。一番奥を突かれた時に光は目の前全体に広がる。血は飛沫をあげて俺の体全体に血痕を残す。勿論、妄想の中での話だ。

あーあ。愛なんて知らなければよかった。セックスなんて知らなければよかった。この高揚感を知らなければ俺はこんなに傷付かなかったし何より阿伏兎を何度も殺すことも傷付けることもなかったのになんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんで。なんで本当に血が流れてるの。これも妄想?違う妄想はもっと冷たくて寒いのになんでいま目の前に広がる血の海は嫌に生暖かいのだろう。


俺の中でいきり立っていた阿伏兎のものは力なく横たわり俺の肩に頭を預けてきている。阿伏兎、起きてよ。耳をかじってもかじっても起きる気配ひとつ見せず驚くほどのスピードで血の気は引いていき気づけば耳は千切れてしまった。さっきまでセックスしてたのに。(頭の中では阿伏兎を殺そうとしていたけれど)なんだよこれ。なんだよ。どうするんだよ。ねぇ、どうすんの?どうしてくれんの?どうしたの?ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ




「愛なんて」


知らなければよかった。

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