Nobel

□事故満足
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今誰に会いたいとか、今誰を愛してるとか、形ないものなのに心の中にある核心的な“なにか”がいつも俺を突き動かす。だから“そいつ”がいないときは判断力が物凄く鈍ってしまうと自分でも気付いているのだ。どんなときでも笑顔は崩さないと、崩せないと心の中で決めていても、笑ってなんていられない。自我なんて保っていられない。アイツは優しいから、仲間は殺せないから、だからどこかで殺されているんじゃないかとか、俺のわがままに耐えきれなくて自殺したんじゃないかとか、俺をおいてどこか遠くにいってしまうんじゃないかとか、そんなくだらないことを考えて気付けば周りは血の海だ。違うんだ。違うんだよ。殺したい訳じゃないんだ。だって同族を殺すと、アイツが悲しむだろ?でもさ、でも、阿伏兎は同族を殺せない。正当防衛でも、アイツは絶対に同族は殺せないんだ。だったら俺が排除するしかないんだ。俺がアイツを守らなきゃいけない。そんな衝動に駆られて、俺は夜兎を殺す。ごめんね、阿伏兎。帰ってくると、そいつはいつも俺を抱き締める。ごめん、ごめんね。殺したかった訳じゃないんだ。阿伏兎を傷つけたいわけじゃないんだ。ただ、好きなんだよ。阿伏兎のことが、好きなんだ。自分ではどうしようもなくなってしまうんだよ。どうしたらいいかわかんなくなって、殺しちゃって、阿伏兎がいつか殺されるんじゃないかって、だから不安で、俺、阿伏兎が死んだらどうしたらいいかわからないんだ。ねぇ、どうしたらいい?泣きじゃくっても、爪をたてても、阿伏兎はずっと抱き締めてくれている。もうこの腕の中で消えてしまいたくなるほど、阿伏兎の腕の中はとても優しい。だからこそ、不安になる。ねぇ、今誰に会いたい?ねぇ、今誰を愛してる?俺は阿伏兎のことが好きだよ。世界中を回って歩いても、誰に愛されても、俺は阿伏兎だけが好き。愛してる。でもお前は、きっと俺を愛してくれない。この腕も、所詮はただの同情なんだ。だから俺は、もう消えよう。たくさん迷惑をかけた。たくさん同族を消した。たくさん不安になった。たくさん涙を流した。たくさん人を傷つけた。たくさん、たくさん、愛したよ。阿伏兎、愛してる。迷惑かけて、ごめんね。甘えてばかりで、ごめんね。ごめん。ごめんなさい。だから、最後に罪滅ぼし。これは、最初で最後の、俺からのプレゼントだ。阿伏兎はきっと、喜んでくれる。優しくキスをして、阿伏兎の手を俺の左胸に持ってくる。ほら、早く、


「殺してよ」

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