Nobel

□名も無き二人の虚無関係
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普段は興味の無いことに、ふと興味が湧いたりする。ふらりとそこに立ちよれば、俺が三人いてもまだ届かないんじゃないかという程の高さがある本棚に本がびっしりと入っている。その一つを手にとってみると、意外にも埃はかぶっていなかった。こんな書庫俺は今まで来たことがなかったけど、他の奴等はきているということだ。面倒な仕事はすべて阿伏兎にやらせていたから、俺は何も知らなかった。後悔や申し訳ないという気持ちとは全く違う、なんとも言えない気持ちに、感慨に耽る。本棚は整理されているのに部屋自体は小汚なく、コンクリートの床は五ミリほど埃を被っていた。他の奴等が歩いたところだけぽっかりとコンクリートの色が見えていて、それに気づいた途端に鼻がムズムズとした。
「へっくしっ」
俺がくしゃみをした途端本棚を三つ挟んだ向こうからガタガタッ!という音が聞こえたと思ったら、今度は唸るような低い声でその誰かは言った。
「…誰だァ?」
聞き覚えのあるその声に、面白がった口調でこう答える。
「誰だと思う?」



相手は高杉だった。本当は誰だ、なんて聞かなくてもわかってたんでしょ?する、と本棚を人差し指でなぞりながら高杉のところまで行くと、壁に持たれ掛かるようにして腕組をしている姿が目に入った。伏せがちの目は長い睫毛をより強調させる材料にしかなっていない。ゆっくりと妖艶な眼差しを向けられると動けなくなったかのような錯覚と共に体の芯がぞくりとした。その瞬間に顎を掴まれ、無理矢理こじ開けられた唇と歯列を割って高杉の舌が俺の口内に入ってくる。激しいのか優しいのかわからないキスに、頭がクラクラとする。
「ん…ふぁ、ちゅく、…んんっ」
抵抗する術も理由もなくただ高杉に口内を犯され唾液を入れられ舌をしゃぶられ唇を甘咬みされる。ゆっくりと口を離すと、二人の間に一本の糸ができて、すぐに消えた。
「…相変わらず、すごいキスだね」
ククッ、と笑った後、首筋に舌を這わせながら聞いてくる。
「すごいたァ、どういう意味だ?」
会話をしている間にも高杉は俺の衣服を器用に剥いで、優しい手つきで撫で回してくる。


「……エロい」

まるで子供のようにちゅう、と乳首に吸い付く高杉の髪の毛に指をすきながら執拗な愛撫に声を出してしまわないよう耐える。高杉の愛撫はまるでフェラの様に淫靡でねちっこいのだ。這い周りじわじわと核心に迫っていく。直接性器を触られたわけでもないのに射精してしまう時もある。そんなときは恥ずかしくて仕方ないけれど。左手で片方の胸を捏ねくり回し、片方の胸は口の中で楽しそうに転がされ吸われ舐め回される。右手はさっきから首筋から腰、脇腹と何度も何度も移動しながらやはり直接性器に触れることはなかった。俺が自分から懇願するのを待っているのだろう。いつの間にか完全に半裸になってしまった上半身を犯し続ける高杉の右手をそっと口元に持ってくる。
「ほんっと…お前は性格が悪いね」
「ククッ…どっかの団長様も相変わらず強情じゃねェか」
上目で笑いかける。自分の放ったピリとした殺意に気付いたのかわからないが、高杉は俺の目を見た後もう一度深く口付けをした。
「んんぅっ、…っ、はっ、ふぁっ」
右手はズボンと下着を同時に下ろし、無意識か意識的にかはわからないが左手は俺の髪の毛から耳、首筋とそのひんやりとした手で何度も巡回した。湧き上がる興奮に我慢できずに高杉の右手を自分の性器に導くと、耳元で淫乱、とひとつ呟いてから激しく上下に扱かれた。


「うぁ、たかすぎっ、や、そ、ないきなり、んんうっ…!」
「…堪えきれなかった罰だ」
ペロリ、と手についた俺の精液をわざとらしく舐める。随分と今日は早かったじゃねェか、という高杉の手を口に含み、ちゅう、と音を立てながらしゃぶりつく。相変わらず不味いな。精液っていうのは。高杉の指にベットリと絡みつく自分の精液をふと高杉の愛撫のようだな、と思った。今度は俺が高杉の性欲を満たす番だ。
「中がいいの?それとも口で?」
慣れたように着物の間にするりと手を入れる。それはもう既に勃起していて、俺の掌が回りきらないほどの質量があった。ちゅっ、と軽いキスをしたあと、上目で高杉を見つめる。返答を待っているのだ。
「お前の好きなようにすりゃあいいさ」
「…やっぱりお前はむかつくよ、本当に」
すべてが高杉の思惑通りのような気がしてイライラする。そんな思いとは裏腹に体の奥は熱くて早く高杉のそれを受け入れたいと思っている。それすらも腹が立って、もうどうでもいいや、どうにでもなれ、と高杉をその場に座らせると、慣らしもせずに上から股がった。
「お前、むかっ、つく…んあぁっ、性格、悪す、ぎ…っ!」
ゆっくりと腰を沈める。そのたび俺の肉を高杉の性器がぬぷぷ、と犯し、伸縮しながらソレを物欲しそうに締め付けるアナルも制御できずに快感だけを求めて腰を振った。
「…ヤラシイちんぽが丸見えだぜ」
「ひんんっ、や、も、お前は、動かないでよ、黙って見て、て、んあああっ」
俺の動きに合わせて突き上げてくる高杉に嫌気が差しつつも、腰を降る度ぷるぷると震える性器や宙に吐き出されるカウパーは隠しきれずに床を汚すばかりだった。
「んっ、んっ、…んんんっ!も、だめ、ひううっ、も、突かない、で!」
「…どうしたァ?腰の動きが遅くなってんじゃねェ、かっ」
「やぁぁっ!…ああぁっ、やだ、止まんな、…ひいいう!まだ、出る…っ!」



二人で埃と男臭い汗とカウパーと精子にまみれながらするセックスはそんなに気分のいいものではなかった。ふと立ち寄ってみた、なんて、立ち寄った場所がここでなくても高杉と顔を合わせればいつもこうなってしまう。お互い悪態を付きつつも、すぐにこれだ。その中にはきっと愛なんてなくて、好きとかそういう形無いもので説明するには核心が不足している。じゃあこの関係になんて名前を付けよう。友達?ライバル?セフレ?恋人?愛人?
…いや、どれも違う気がする。きっとこの関係に名前なんてなくて、ふと気づいたらセックスをしている。ただそれだけでいいじゃないか。

俺たちがこの気持ちに気付くのは、もっとずっとあとの話。

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