企画

□特等席
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バッ、と突然両手を広げたシンドバッドに皆の注目が集まった。

「さぁ、子供たち!お年玉だよー!」

わぁーい、とアラジンとアリババがシンドバッドに駆け寄るなかモルジアナだけは無表情で座ったままだ。

「ん?どうしたモルジアナ。」

「お年玉いらないのか?」とシンドバッドが近付くとモルジアナはこてん、と首を傾けた。

『お年玉、とはなんですか?』

モルジアナは生まれてこの方お正月という日を過ごしたことがない。なのでお正月という言葉を知ってはいてもお年玉という言葉は聞き覚えがなく首を傾げるしかなかった。

「お年玉というのはね。」

そんなモルジアナの隣に来て、笑顔で説明するのはジャーファルだ。

「私たち大人が日頃いい子にしている君たちに贈るものだよ。」
「へー、お年玉ってそういうものなんだー!!」
「アラジンお前。知らないで喜んでたの!?」

アラジンの言葉にアリババは苦笑で返した。

『…ジャーファルさんやシンドバッドさんは貰えないんですか?』
「え」

モルジアナの問いにシンドバッドとジャーファルは声を揃えて驚きの声を上げた。
 
『ジャーファルさんもシンドバッドさんも私たちに良くしてくださいます。それなのにお年玉を貰えないんですか?』

モルジアナのそんな真っ直ぐすぎる問いにシンド バッドもジャーファルも顔を見合せ声もなく笑った。

「モルジアナは優しいね。」
「でもそんな心配はいらないぞ!オレたちは普段からお年玉を貰ってるからな。」
『…?』

ジャーファルに頭を撫でられているモルジアナはシン ドバッドの言葉にまた首を傾げた。

「モルジアナー!!」

しかしその疑問は声に出されることなくアラ ジンとアリババの登場により阻止された。

「ねーねー、モルさん!ご馳走だよ!!食べようよ!!」
「美味しいぞ!!」

右にアラジン、左にアリババと手を引かれモルジア ナは顔だけシンドバッドとジャーファルに向けた。
すると口パクで“行っておいで”と背中を押され二人とパーティへと戻った。


******


「も…、もう食え…ね…」
「ウフフ…お姉、さ〜ん…ウフフ…」

パーティが終わるとアラジンもアリババも疲れたのかその場で寝てしまった。

『…』
 
モルジアナが周囲を見るとシンドバッドやジャーファル 、ヤムライハやシャルルカンも寝息をたてていた。

『(このままじゃ風邪を引いてしまうわ。)』

モルジアナは部屋から一旦出ると沢山の布を抱え戻ってきた。

『これでよし…』

これで皆風邪を引かなくてすむ、とモルジアナ は満足気に笑うと瞼が重くなるのを感じた。

『(…、眠くなっ…)』

最後まで意識を繋ぎ止めることが出来ず、前のめりに倒れた。

『(あ…)』

すると固い、しかし安心する何かが自分を包んだような気がした。

『…マス、ルール…さん…』

ふふ、とモルジアナは笑うと意識を手放した。


******


チュンチュン、と小鳥の囀りが聞こえる。

『…』

うっすらと目を開けたモルジアナの目に窓から射し込む早朝の淡い光が入った。

『!!』

カッ、と目を開くと皆がまだ寝ていることに安堵の溜め息を吐いて肩の力を抜いた。すると背中越しに固い何かにぶつかる。

『?』

ゆっくり顔だけ振り返ると規則正しい寝息をたてているマスルールの姿がそこにはあった。

『……っ』

モルジアナは一瞬言葉を失うが自分を包む柔らかな布の存在に気付き笑った。
 
『ありがとう…ございます。マスルールさん。』

布を引き寄せ隙間を無くすとマスルールと布の温かさが自分を包んでくれているようで嬉しくなった。

『お帰りなさい、マスルールさん。
それとおやすみなさい…』

モルジアナは瞼を閉じてまた夢の世界へと飛び込んだ。

「『スー…スー…』」

大好きな温もりに包まれながら…。


特等席


(ん…っ、良く寝……だあああああああああ!!!!)
(ビク!!)
(スー…スー…)
(な、なんですかシン!?)
(あ、あ…!!)
(シンドバッドさん!?)
(こ、こんなところに天使がおるううう!!)
(は?)
(スー…スー…)
(…あー、なるほど…ってマスルール(さん)ズル! !)


・終わり・
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